21.2 イ形容詞の活用
まず丁寧体と普通体の否定・過去の形をもう一度見てみましょう。
長いです 長い
長くないです 長くない
長かったです 長かった
長くなかったです 長くなかった
イ形容詞が他の述語と違う点は、日本語教育にとって最も基本的な形である丁寧体の現在・肯定の形の中に普通体の現在・肯定の形つまり「基本形」が入っているということです。(動詞、特に五段動詞ではマス形と基本形はまったく別物です)
上の例を見ればわかるように、丁寧形の中に普通形、つまり基本形とナイ形、タ形が含まれています。ですから、学習者にとってイ形容詞の普通体の活用は難しいものではありません。(イ形容詞の否定には、もう一つの形、「長くありません(でした)」という形もあります。そちらにすると、以上のことは言えません。)
動詞の場合に「読みます」というマス形と「読み」という中立形を区別したのと同様に、イ形容詞では「長くない」というナイ形と「長く」という中立形を区別して考えます。(この「長く」は、「この糸は長く、太い」のような場合の用法です。「糸を長く伸ばした」のような場合は、活用形でなく副詞と考えます。「11.副詞」のところを見てください。)
その外に、テ形、タリ形、タラ形、バ形が動詞と同様にあります。また、基本形から「-い」を取った「語幹」は、活用形とは言えませんが独自の用法をもちます。「長そうだ・長すぎる」などは、語幹に直接「接辞」が付いて複合述語になっています。以上を整理して並べると次のようになります。
イ形容詞の活用表
活用形 語例
(語幹) なが
基本形 なが-い
中立形 なが-く
テ形 なが-くて
ナイ形 なが-くない
タ形 なが-かった
タリ形 なが-かったり
タラ形 なが-かったら
バ形 なが-ければ
推量形 なが-かろう
「長いです」という丁寧体の「現在・肯定」の形、学習者にとってもっとも基本的な形は、基本形「長い」+丁寧を表わす無変化の助動詞「です」と分析されます。活用形の一つとはしないわけです。丁寧体の四つの形を見れば、この「です」が活用形の一部とはならないことが納得できると思います。
それぞれの活用形の用法は、語幹を除けば動詞と似ているので、一つ一つ説明しなくてもいいでしょう。どんな文型に使われるかざっと挙げておきます。それぞれの活用形が使われる文型のところでイ形容詞の例も扱っていますので、くわしくはそこを見てください。
語幹 高そうだ(推量) 高すぎる(過度)
基本形 高い。(普通体の現在・肯定) 高いと(条件)
高いから・高いので(理由) 高いのに(逆接) 高いし(並列)
高いために(理由) 高いのが(名詞節) 高いN(連体修飾)
高いとき・あいだ(時の連用節) 高いまま・高いだけ(形式名詞・副助詞に)
中立形 長く、~(並列) 長くV(連用修飾)
テ形 長くて、~(並列) 長くてもいい・てはいけない(許可・禁止)
長くても・ては(条件)
ナイ形 (基本形に対応する用法+) 長くなくて、~(並列)
長くなくてもいい・なければいけない(許可・必然)
タ形 (「~と」以外の基本形の用法に対応)
タリ形 長かったり(並列)
タラ形 長かったら(条件)
バ形 長ければ(条件)
中立形にはちょっと説明を加えておきましょう。この形は、動詞の場合と同じように、国文法ではテ形と共に連用形と呼ばれていたものです。動詞と同じように、「並列」の節になります。
技芸は難く、人生は短い。
動詞と違うところは、この形が述語の修飾、つまり連用修飾によく使われることです。同じような場合、動詞ではテ形が使われるところです。
髪を長く伸ばす 速く走る
髪を切って短くする 急いで行く
もう一つ、「推量形」という形があります。「長かろうと短かろうと」という言い方に出てくる「長かろう」の形です。これは「推量」を表わす形としてはもう古い形です。ふつうの「推量」には「長いだろう」という「基本形+だろう」の形が使われます。
活用の例外が一つあります。「いい」は、基本形以外は「よい」の活用と同じになります。というより、「よい」がもう一つの基本形を持っていると言うほうが正しいのでしょうが、学習者にとっては「よい」よりも「いい」のほうが基本的な語になる(先に習う)ので、「いい」の活用として「いい・よく・よかった」などの形を教えることになります。語幹の用法では「よさそうだ・よすぎる」という形になります。
21.3 ナ形容詞と名詞述語の活用
まず、丁寧体と普通体の否定・過去の形を並べます。前に「文体」のところでは名詞の例を出したので、ここではナ形容詞の例を出しておきましょう。名詞述語の場合も語尾は同じです。
きれいです きれいだ
きれいではありません きれいではない
きれいでした きれいだった
きれいではありませんでした きれいではなかった
ナ形容詞と名詞述語はイ形容詞と違い、丁寧体の形の中に普通体の形は含まれていません。ですから、学習者は新たな形を覚えなければなりません。
イ形容詞「長いです」の「です」と、ナ形容詞「きれいです」の「です」は形は同じですがまったく違うものであることを復習しておきましょう。
イ形容詞のほうは「長くないです・長かったです」のように否定にしても過去にしても、「です」のところは変わりません。「です」があってもなくても「長いです・長い」のどちらも「現在・肯定」であることは同じです。この「です」は「丁寧」という意味を加えているだけです。
それに対してナ形容詞の「です」は、「きれいだ」の「だ」と対立しています。「です」自体が「現在・肯定」という意味を担っています。これを取ってしまった「きれい」は、いわばハダカの語幹です。
ナ形容詞と名詞述語の変化がほぼ同じで、名詞述語のほうを「名詞+だ」と考えるのなら、ナ形容詞も「x+だ」とすればいいのではないか、という考え方が出てきます。つまり、「きれいだ」は一つの単語ではない、と考えるのです。そうすると、たとえば「きれい」という単語は何という品詞とするのか、という問題になります。ここではこの議論に深入りすることはしませんが、どのみち割り切れない問題だ、という気がします。この本ではいちおう一般的な説に従って、ナ形容詞は一語と見ることにします。
活用形をイ形容詞の並べ方に従って並べると、次のようになります。
ナ形容詞と名詞述語の活用表
活用形 ナ形容詞 名詞述語
(語幹) きれい
基本形 きれい-だ 学生-だ
中立形 きれい-に 学生-に
テ形 きれい-で 学生-で
ナイ形 きれい-でない 学生-でない
タ形 きれい-だった 学生-だった
タリ形 きれい-だったり 学生-だったり
タラ形 きれい-だったら 学生-だったら
バ形 きれい-なら(ば) 学生-なら(ば)
連体形 きれい-な 学生-の/な
動詞の場合の「マス形」のように、「きれいです」を「デス形」と呼んでもよさそうなものですが、ふつうそう言いません。「です」は「だ」の丁寧体ということになります。
動詞の場合は、辞書にある形から丁寧体の現在つまりマス形を導いたり、その反対にマス形から基本形を導くことはかんたんではないので、それぞれに特別な呼び名があった方が便利です。けれども、ナ形容詞の場合は、辞書に載せられている形はふつう語幹の「きれい」で、基本形は「きれいだ」ですから、それらから「きれいです」の形を導くこと、およびその反対は何でもないことです。で、特に呼び名がないのでしょう。
ナ形容詞とイ形容詞の違いは、それぞれの活用形の形の違い以外にもいくつかあります。
まず、ナ形容詞には「連体形」があるという点がもっとも大きな違いです。イ形容詞や動詞では普通形の四つの形がそのまま連体修飾の形になりますが、ナ形容詞は特別な形をもっています。逆に、このナ形容詞の連体形に合せて、動詞とイ形容詞の「連体形」を活用表に加える(もちろん基本形と同じ形です)ことも多いのですが、それはむだなことです。それらは、基本形の「連体用法」と考えればすむことです。
ナ形容詞の連体形は、名詞の前だけでなく、副助詞(きれいなだけだ)や、接続助詞の「ので・のに」、また「~のです」に続く場合にも使われます。
また、ナ形容詞は語幹の用法がイ形容詞よりも多くあります。
ひま+ でしょう(だろう)、かもしれない、過ぎる、そうだ、らしい、みたいだ、
疑問の「か」、終助詞の一部
これも、ナ形容詞の「だ」を切り放す考え方の根拠の一つになります。
活用の例外となるのは「同じ」というナ形容詞で、連体形が「同じな」とならず、語幹と同じ「同じ」になります。
名詞述語の活用でナ形容詞と違うのは「連体形」です。名詞の前では「NのN」となることはすでに述べました。もう一つの連体形「Nな」の形は、「~ので・のに・のです」など、「の」で始まる要素に接続する時に現れます。
まだ学生なので/のに、~
明日は私の誕生日なのです。
また、話しことばで、一部の形式名詞の前に使われることがあります。
まだまだ子どもなわけで、どうかそのへんはよろしく。
担当者が新任なもので、よくわかっていないんです。(新任の人)
もう一つ、「バ形」に隠れた問題があります。「-ならば」は古い言い方となり、「-なら」がふつうだ、というだけなら何にも問題はないのですが、条件を表す文型として、「-ば」と「-なら」が別々に存在するので、ちょっと困ります。この問題は「49.条件」でまた述べます。
行けば・行くなら 長ければ・長いなら
自由なら 学生なら
それぞれの活用形の用法は、イ形容詞と同じですから、繰り返すことはしません。語幹の用法については上で述べました。
なお、「-だろう」は上の「-だ」の、「-でしょう」は次の「-です」のそれぞれ推量形(意志形)とも考えられますが、動詞に接続することも考えあわせて、独立した助動詞とします。
21.4 「です」「ます」の活用
さて、ナ形容詞・名詞につく「-です」の活用は次のページのようになります。ついでに、動詞の丁寧体の接辞「-ます」の活用を並べます。
「-ます」には意志形があります。連体形は基本形と同じで、基本形の一つの用法と考えるのは、動詞の場合と同じです。
念のためにまた強調しておきますが、この「です」の活用形は、イ形容詞の「です」にはありません。ナ形容詞なら、
母はとても健康でして、~
と言えますが、イ形容詞の「です」は変化しないので、
×母は頭が痛いでして、~ (○痛くて)
とは言えません。もちろん、否定の形も違います。(×痛いではありません)
「です」「ます」の活用表
(語幹) des- mas-
基本形 です ます
テ形 でして まして
ナイ形 ではありません ません
タ形 でした ました
タリ形 でしたり ましたり
タラ形 でしたら ましたら
バ形 (ますれば)
意志 ましょう
ここで問題が一つ残ります。「-ではありませんでした」や「(食べ)ませんでした」の「でした」は何なのか、という問題です。とりあえず、「ません」に付いて過去形を作る接辞、としておきます。いかにもその場しのぎですが。
[「-デハナイデス」という形]
名詞・ナ形容詞につく「-ではありません」の代わりに、「-ではないです」という形が使われることがあります。話しことばです。
この会議って、明日じゃないですよね。
ちょっとこの店によって行きません? あんまりきれいじゃないですけど。
さらにその過去の形、「-ではなかったです」。
あれ?これ、あなたのじゃなかったですか?
あの話、やっぱり本当じゃなかったですよ。
これは、イ形容詞の否定の形「-くない」の丁寧な形が「-くないです」と「-くありません」の二つあり、その過去がそれぞれ「-くなかったです」と「-くありませんでした」であることに対応した形と言えます。
この形は、日本語教育ではふつう認められていないと思いますが、正しい形として並べている本もあります。
21.5 「である」の活用
書き言葉で使われる「である」の活用した形は次のページのようになります。
つまり「ある」という動詞の活用がそのまま「で」の後に出てきます。もちろんナイ形は別です。
「である」の丁寧体は「であります」で、その活用は「ます」の活用と同じになります。
この点はなかなか難しい問題であって、~ (である)
この点はなかなか難しい問題でありまして、~
この問題はそれほど難しい問題ではありません。
ナイ形は「は」が入って「ではありません」となります。つまり、「です」のナイ形と同じになります。
「である」の活用表
活用形 ナ形容詞 名詞述語
(語幹) きれい
基本形 きれい-である 学生-である
テ形 きれい-であって 学生-であって
ナイ形 きれい-でない 学生-でない
タ形 きれい-であった 学生-であった
タリ形 きれい-であったり 学生-であったり
タラ形 きれい-であったら 学生-であったら
バ形 きれい-であれば 学生-であれば
これは、「です」のほうが不規則なので、「です」の活用形に「であります」の活用形がまぎれこんでいるわけです。もし「です:でせん」というような変化だったら、ちょうど「ます:ません」と対応したのですが。
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