27.1 V-てみる
27.2 V-てみせる
27.3 N/NA-でいる
27.4 NA/A-てたまらない
27.5 補助形容詞
27.6 接辞
アスペクトのところで述べたように、動詞のテ形に接続して複合述語を作る動詞を「補助動詞」と呼ぶことにします。補助動詞はアスペクトに関係するものが多く、そこでいくつかを説明しました。以下ではそれ以外の補助動詞をとりあげます。それと、動詞の中立形に接続して複合述語を作る形容詞を少し。さらに、接辞をいくつかとりあげます。
27.1 V-てみる
「V-てみる」の意味は、ある動作をして、その結果を「見る」というように考えられます。試しに何かをする、という意味合いになることが多いです。
駅前の新しい本屋へ行ってみた。
この場合、「行って、見た」の意味にもとれますが、ふつうは補助動詞としての「どうかわからないが、ともかく~」という意味合いになることが多いようです。「見てみる」という形もあります。
おいしいかどうか、食べてみた。
「この靴は小さいかなあ」「ちょっとはいてみて下さい」
失敗を恐れずに、まずやってみよう。
何事も実際にやってみなければ、その是非は論じられない。
故障かどうかは一度見てみないと何とも言えません。
知らない街を歩いてみたい どこか遠くへ行きたい
一度でいいから、こんな豪邸に住んでみたい。
最後の例のような「V-てみたい」という形がよく使われます。「V-たい」とあまり違わない場合が多いのですが、意味合いとしては、「そうしたらどうなるか、ちょっと試しに」という意味は生きています。ですから、「死にたい」とは言えますが、「×死んでみたい」とは言えません。
「見る」の敬語動詞「御覧になる」の「-なさい」の形、「ごらんなさい」も「V-て」と共によく使われます。「-なさい」を省略することが多いです。
ともかくやってごらんなさい。
お-い、ちょっと来てごらん。
見上げてごらん 夜の星を
山の古巣へ行ってみてごらん(童謡「七つの子」)
実際にそのことが実現して、その結果どうなったかを言う場合があり、「試しに」の意味はなくなります。複文の「条件」の形になります。
年よりになるのはいやだったが、なってみると、そう悪いものでもない。
いつもけんかばかりしていた姑に死なれてみると、あのけんかが私にとっても
毎日の生きる張りだったということがよくわかった。
27.2 V-てみせる
ある動作をする場合に、他の人がそれを見ていることを意識してする、つまりはその動作をするところを「見せる」場合に使われる表現です。やり方を教えるような「教育的な」場合、言い換えれば、頼まれて「見せる」場合と、誇らしげに見せつける場合とがあります。
もう一度書いてみせて下さい。
cf. もう一度書いてみて下さい。
まずやり方を教え、やってみせ、それからやらせてみる。
全文を暗唱してみせた。
見てろよ。偉くなってみせるぞ。
27.3 N/Na-でいる
上の記号化した形を見ただけではどんな文型か思い浮かばないかもしれません。次のような例です。
いつもきれいでいろ。
いつまでも元気でいてね。
親に気を使って、子どもは「いい子」でいようとする。
いつまでもたえることなく、友達でいよう。
名詞述語・ナ形容詞の「テ形」に補助動詞「-いる」がついた形です。全体としては動詞になるので、命令形や意志形があります。
名詞述語・ナ形容詞はもともと状態性の述語ですが、それに「継続性」をプラスするための補助動詞「-いる」が付くのはなぜでしょうか。
「~でいる」の形の意味は、上の例からもわかるように、「その状態を意志的に継続する」ということでしょう。ですから、その意味を特に必要となるような場合、つまり命令形や意志形を必要とするような場合に、この形が使われるのです。
同じような効果を持つ表現として「Naにする」があります。
静かにしろ!/静かにしていろ!
部屋をいつもきれいにしていなければならない。
「静かだ」は状態ですから、その意志的な実現を表すために「静かにする」という形を使います。それの継続が「静かにしている」で、上の「静かでいる」よりも一般的な形です。
イ形容詞の場合は、状態を表す表現として「Ai-くある」があります。かなり硬い文章語、というより文学的な表現です。
美しくあれ!
「-ある」の形はナ形容詞・名詞述語では「である」になります。意志形や命令形をとることができます。
堅実であれ!
教師の言葉に忠実な学生であろうとしたが、・・・
27.4 Na/Ai-てたまらない
「たまらない」は辞書を見ると、「連語」となっています。動詞「たまる」の否定形ですが、一つの形容詞のように使われます。ただし、それ自体の否定形はまだ安定していません。
運動の後のビールはたまらないね。
×たまらなくない/たまらなくなかった
それが感情・感覚形容詞の後について、「非常に~ので、我慢できないほどだ」と程度を強調する働きをします。
暑くてたまらない。(辛くて/寂しくて/痛くて/欲しくて)
毎日忙しくてたまりません。
今の職場の人間関係がいやでたまりません。
退屈でたまらない時、何か刺激が欲しくなる。
タバコが吸いたくてたまらない。禁煙三日目。
「~てしかた/しよう がない」という言い方もあります。
夜、寂しくてしかた/しよう がない。
腹が立って仕方がない。
そのことが気になって仕方がありません。
のような心理状態を表す動詞を受けることもできます。
「~てならない」は少し硬い言い方です。
子どものことが心配でならない。
そう思えてなりません。
27.5 補助形容詞
ここで補助形容詞というのは、次のようなものです。
ナイフとフォークというのはどうも食べにくい。
このペンはとても書きやすい。
その意見には賛成しがたい。
あの日本人の発音は、日本語学習者には聞きづらい。
補助動詞と同じように、動詞の後に付いて、ある意味を付け加えます。多くの動詞に付くことができます。否定や過去の形は形容詞の活用と同じです。
ここでは、上のような文法的な機能を持つものを、補助動詞に合わせて「補助形容詞」と呼ぶことにします。動詞の中立形に接続します。
27.5.1 V-やすい
「V-やすい」は動詞の中立形に接続して、①「そうすることはやさしい」②「すぐにそうなってしまう傾向がある」という意味を表します。「安い」ではなく、「言うは易く、行うは難し」の「易い」です。活用はイ形容詞と同じで、「-やすくない・やすかった」となります。
①行為者の意志的な行為が容易に実現されることを表します。そのこと・ものに対する肯定 的評価があります。
このペンは書きやすいです。
ナイフとフォークより、はしのほうが食べやすい。
持ちやすいかばん
見やすい角度
あの人の発音は留学生にも聞き取りやすい。
ちっとも使いやすくないですよ。
あの車はとても運転しやすかった。
このワープロはお年寄りにも使いやすく作られている。
「Nが」の位置に動詞の対象・道具などになるモノが来ます。つまり、
人が モノを/モノで V → モノが V-やすい
という関係があります。「人」は一般的な人です。特定の人は「Nに」の形で示します。「Nにとって」の意味あいです。
②非意志的行為・自然現象などについて、それが容易に起こることであることを表します。そのことに対する否定的評価であることが多いです。否定にはなりにくいようです。
こういう季節には風邪をひきやすい。
暑さで食べ物が腐りやすくなる。
最近、子どもたちの骨が折れやすくなった。
壊れやすいおもちゃが多い。
この子はどうもおなかをこわしやすい。
洗濯物が乾きやすい日 (肯定的評価)
27.5.2 V-にくい
「V-やすい」の反対の意味を表します。
①一つは、意志的な行為に関して「そうすることが難しい」という意味です。動詞が他動詞で、その対象の「Nを」となるような名詞が「V-にくい」全体に対する「Nが」となる例が多くあります。その他に、道具の「Nで」、場所の「Nに」なども、「Nが」になります。否定的評価です。
この本は小学生には読みにくい。
この早口言葉はそんなに言いにくくない。
別れの言葉は書きにくかった。
この靴はどうも歩きにくいです。
右利き用のはさみは、左利きの人には切りにくい。
東京はすっかり住みにくい町になってしまった。
その温泉はずいぶん行きにくい所にあった。
②もう一つの意味は、非意志的な動詞で、かんたんにはそうならない、そうなることがあまりない、という性質を持っていることを表します。
体が丈夫で、病気になりにくい。
この絵の具は変色しにくい。
風邪を引きにくい体質
混ざりにくい 燃えにくい ながれにくい おれにくい
27.5.3 V-いい
「-やすい」に近く、意志的行為に関して「そうすることがかんたんで気持ちがよい」ことを表します。肯定的評価です。主体がそう感じること。話し言葉です。「V-よい」の形も使われます。あまり使われません。
この靴はわりと履きいいね。
暮らしいい町 飲みいい薬
住みよい家
27.5.4 V-づらい
「つらい」という形容詞が動詞に接続し、音変化を起こして接尾辞になっています。「-にくい」に近い意味で、意志的動作に関して「そうすることが難しい」ことを表します。否定的な評価で、いいことには使えません。
このパソコンのモニターはどうも見づらい。
この紙は表面がつるつるしていて書きづらい。
服がきつくて動きづらかった。
そんなに使いづらくないですよ。
27.5.5 V-がたい
「かたい」は「-やすい」の「易」の反対の「難い」です。これも音変化を起こして「-がたい」となっています。そうすることが困難であり、ほとんどできないことを表します。硬い文体で使われます。過去にはなりますが、否定の形「×V-がたくない」はありません。
台風の進路予想は、何とも言いがたい。
現状のままでは、この地域は発展しがたい。
天才の頭脳の働きは、凡人には測りがたい。
彼の行為は許し難かった。
この他に次のような動詞とよく使われます。名詞修飾の形で例を出します。
忘れがたい(思い出) 信じがたい(話) 得がたい(人物)
近寄りがたい(人) 動かしがたい(証拠) 耐えがたい(苦しみ)
27.6 複合述語を形作る接辞
以上は、いちおう元々は形容詞であったものをとりあげました。ここでついでに、形容詞的活用をする接辞をいくつかみておきます。その後で動詞化する接辞なども。
27.6.1 ~がちだ
基本的には動詞を受けます。名詞修飾の形は「~な/の」両方あるようです。そのような性質・傾向を持っていることを表します。動詞・名詞に付きます。否定的な評価が加わることが多いです。過去はありますが、否定は使いません。
最近どうも風邪をひきがちだ。
そう考え/思い/言い がちだった。
かさを電車に忘れがちになった。
曇りがちの空 ありがちなこと
夢見がちな少女
黒目がちの少女
27.6.2 N-らしい
名詞に接続して、その名詞としてふさわしい性質を持っていることを表します。否定・過去は「-らしくない・らしかった」となります。なお、「推量」を表す「~らしい」とはまったく違います。(→「38.4 ~らしい」)
子どもらしい子どもが少なくなった。
彼の態度はとても男らしかったです。
春らしい天気
そんなことを言うとは、彼女らしくない。
名詞形の「N-らしさ」もよく使われます。
女らしさ 男らしさ 子どもらしさ
27.6.3 ~っぽい
元々そうではない、あるいはそうであるべきでないものが、そのような性質を持っていることを表します。そうであることに否定的な評価を感じさせることが多いです。接続できる品詞が多いのも特徴です。否定も過去もあります。話しことばです。
(名詞に)
男っぽい 学生っぽい 素人っぽい 子供っぽい
色っぽい 水っぽい 黒っぽい ほこりっぽい
理屈っぽい 愚痴っぽい
(イ形容詞に)
安っぽい 白っぽい 赤っぽい 黄色っぽい
(ナ形容詞に)
きざっぽい 俗っぽい 皮肉っぽい
(動詞に)
忘れっぽい 飽きっぽい 怒りっぽい 湿っぽい
年をとると忘れっぽくなる。
最近の若い女優は色っぽくないねえ。昔はもっと色っぽかったよ。
上で見た「-らしい」と比べると、お互いの違いがよくわかります。
男らしい男 子どもらしい態度
男っぽい女 子どもっぽい態度(大人の)
「-らしい」のほうは、本来「男・子ども」である主体が、それにふさわしい様子であることを表し、肯定的な評価が含まれます。
「-っぽい」のほうは、本来そうでない主体がそのような様子をしていることを示し、それは好ましくないことだという評価があります。
ただし、例外はあるようで、「色っぽい」というのは、元々はともかく、今では否定的評価はないでしょう。
27.6.4 A-がる
形容詞を動詞化する接辞です。感情・感覚形容詞と、それ以外のいくつかの形容詞につきます。「ムード」で扱う「ほしい」「V-たい/てほしい」にもつきます。語尾の「-い」をとって「-がる」をつけます。
悲しい → 悲しがる 痛い → 痛がる
ほしい → ほしがる 見たい → 見たがる
いやだ → いやがる 退屈だ → 退屈がる
そう思っている様子を外側から客観的に表現します。話し手と聞き手の現在の状態には言えない。意志の否定や禁止命令なら言えます。
×君も食べたがっているね。(君も食べたそうだね。)
あの時、君も行きたがっていたね。
小さいころ、僕はおもちゃを欲しがって泣いたそうだ。
そんなものを欲しがるな!
欲しがりません!勝つまでは!
感情形容詞でない例としては、「強がる・新しがる」などがあります。「面白い・珍しい」などにもつきますが、その場合、これらの名詞は、
[もの]が 形容詞
という一般の形容詞の型ではなく、
[ひと]に [もの]が 形容詞
という感情・感覚形容詞の型をとると考えられます。
27.6.5 N-化する
名詞を動詞化する接辞です。特に漢字2文字の名詞によくつきます。
近代化 映画化 省力化 自由化 正当化 精密化 均質化
マンネリ化 大都市化 過疎化
女性化 幼児化 高性能化 コンピューター化 核家族化
「ある状態になる/する」ということを表します。その「状態」は、その前の名詞の意味と常識によります。「近代化する」は「近代的にする」ですが、「機械化する」は、機械になったりしたりすることではなく、「機械を使う状態になる」ことです。
27.6.6 N-的
名詞をナ形容詞にする接辞です。「N-化する」と共通する語がたくさんありますが、もともと形容詞的な働きのある語にはつきません。(×自由的・精密的)
意味はいくつかあり、
「~に関する」(事務的・本質的・哲学的)
「~の性質を持つ・~に似た」(動物的・悲劇的・貴族的)
「~の状態にある」(合法的・必然的・普遍的)
などに分けられます。
「-的」の中で特徴のある語群を紹介しておきましょう。「合理的な」は否定の「不」のついた形は「不合理な」となって、「-的」はつきません。
合理的な/不合理な ×合理な ×不合理的な
cf. 自由な/不自由な 親切な/不親切な
不自然な 不真面目な 不適当な 不十分な 不公平な
類例として次のような語があります。
徹底的な/不徹底な 統一的な/不統一な 道徳的な/不道徳な
定期的な/不定期な 調和的な/不調和な 経済的な/不経済な
規則的な/不規則な
なお、「人間的な/非人間的な」「合理的な/非合理的な」という対もあります。
参考文献
石川守1985「「~てみる」と「~ようとする」に関する一考察」『語学研究』41拓殖大学語学研究所
笠松郁子1989「「してみる」を述語にする文」『教育国語』98むぎ書房
笠松郁子1991「「してみせる」を述語にする文」『教育国語』100むぎ書房
橋本修2001「「てみる」「ておく」と「ない」との共起」 『筑波日本語研究』6筑波大学文芸・言語研究科
日本語教育学会 1982『日本語教育事典』大修館(ぽい やすい にくい よい がたい)
森田良行1989『基礎日本語辞典』角川書店(がち にくい・やすい ぽい)
森田良行・松木正恵1989 『日本語表現文型』アルク出版(~てたまらない・ならない)
A.Alfonso 1966『Japanese Language Patterns vol.1』『同 vol.2』上智大学
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