35.1 ~てはいけない 35.5 ~てはだめだ
35.2 ~てはならない 35.6 ~てもかまわない
35.3 ~てもいい 35.7 可能形・V-ことができる
35.4 ~べきではない
強い命令の「しろ」に対しては否定の「するな」があり、依頼の「してください」には「しないでください」がありますが、「しなさい」に対する否定の形はありません。あまり強くない命令(指示)として、否定を言いたい時はどう言っているのでしょうか。
これをしろ。それはするな。
これをしてください。それはしないでください。
これをしなさい。それは、・・・
一つの可能性は、
それはしてはいけません。
でしょう。この「~てはいけない(いけません)」は「禁止」の表現です。同じような言い方に、「~してはだめだ」「~してはならない」などの言い方があります。
これらの表現は、一般的・社会的な事柄の場合と、話し手が聞き手に対してその時その場面で言う、命令的な場合があります。
未成年者はたばこを吸ってはいけません。(一般的に)
あなたは未成年でしょう?たばこを吸ってはいけませんよ!
(目の前の人に対して。「吸うのはやめなさい」に近い。)
行動を禁止する「~てはいけない」に対して、行動を許す表現が「~てもいい」です。「許可」の表現と言われます。「~てもかまわない」の形もあります。これらの禁止と許可の表現について考えることにします。
35.1 ~ては いけない/いけません
35.1.1 変化と接続
「~てはいけない」の丁寧な言い方は「~てはいけません」ですから、ちょうど動詞の否定の言い方の普通形・丁寧形と同じ形になります。「いける」という動詞を仮定すれば、その否定の形「いけない・いけません」と同じです。しかし、「~てはいける」という形はありません。
過去形は「~てはいけなかった・いけませんでした」です。否定の形(×~ていけなくない)はふつうは使いません。話しことばでは「~ちゃいけない」の形もあります。動詞のテ形が「V-で」になる場合は「V-ではいけない」になります。(話しことばでは「V-じゃいけない」)
「~てはいけない」は動詞だけでなく、形容詞・名詞述語にも付きます。名詞述語・ナ形容詞の場合は「~では」になります。
鉛筆で書いてはいけません。
作文は短くてはいけません。
答え方はかんたんではいけません。
代筆ではいけません。
そのころ、バイクで通学してはいけませんでした。
後に「~でしょう/そうです」などを接続して、「~してはいけないでしょう/してはいけないそうです」のようにさらに文末を複雑にすることもできます。また、連体修飾にも使えます。
放送などで使ってはいけない言葉がたくさんあります。
人は、してはいけないことをしたがるものだ。
この文型は、どの本を見ても「~てはいけない」の形になっていますが、文脈によっては「~てもいけない」の形になることがあります。
本を見てはいけません。おたがい相談してもいけません。
これをしてもいけないし、あれをしてもいけない。まったく規則の多い学校だ。
後の例は、「~も~も」の文型がかぶさっているわけです。
「いけない」を「いかん」ということもあります。少し年輩の男性の命令的な言い方です。
そこへ入っちゃいかん。
35.1.2 意味
基本的には「禁止」の意味ですから、立場が上の人から下の人に対して使われるのがふつうです。もちろん、文脈によっては、下の人が上の人に言うこともあります。
社長、そのようなことをなさってはいけません。
動詞は意志動詞が基本です。禁止するためには、相手の意志的行動である必要がありますから。意志動詞でない場合は、「禁止」ではなく、そうならないように努力せよ、という意味合いになります。
必ず合格しなさい。落ちてはいけないよ。
門限は12時です。遅れてはいけません。
死んじゃいけない。しっかりしろ。
主体が聞き手でなく、3人称やものである場合は、「禁止」ではなく、そのことが好ましくないことであることを表します。最後の例は「私が」で、話し手自身のことを言っています。
彼は日本にいてはいけない。国で活躍すべき人だ。
このことは彼女に知らせないように。彼女が悲しんではいけない。
荷物が途中で落ちてはいけないので、荷台にしっかり固定します。
その時、手がぶれてはいけません。画像が流れてしまいます。
私が忘れてしまってはいけませんね。気を付けます。
ただし、そのことが聞き手によって左右されることで、それを聞き手に対して注意するなら、「禁止」でありえます。
筆記具は鉛筆ではいけません。(鉛筆で書いてはいけません)
髪は肩より長くてはいけません。
「禁止」というのは、これからしようとしていることに対して言うことですから、すでにしてしまったことに対して言うと、非難の意味合いになります。
おやおや、そんなことをしてはいけないね。(すでにしたことに)
冗談言っちゃいけない。そんなことはできないよ。
こうなってはいけないね。ほとんど負けだ。(ゲームをしながら)
過去形の場合も、過去にしたことに対する批判・反省の意味合いが出ることがあります。
君は、あんなことをしてはいけなかった。
私は、ここへ来てはいけなかった。
[疑問文と答え方]
疑問文「~てはいけませんか」は、「いいか悪いか」を客観的に聞く場合だけでなく、許可を求める表現にもなります。つまり、「~てもいいですか」に近くなります。
「この仕事、明日にしてはいけませんか」「いいですよ」
「これ、いただいてはいけませんか」「どうぞお持ちください」
「こっちのは片づけちゃいけないの?」「あ、だめだめ」
「~てはいけませんか」という質問に対して、「~てはいけません」と答えられるのは、そのような立場の違いがはっきりある場合に限られます。教師と生徒とか。ふつうはもっと柔らかい答え方をします。
「入ってもいいですか」「すみませんが、入らないでください」
「恐れ入りますが、一般の方はここに入ることはできません」
[ハとガ]
主体に付く「は」と「が」の違いが「いけない」の意味に影響します。
a この部屋に子どもは入ってはいけない。
b この部屋に子どもが入ってはいけない。
aは、子どもに対する「禁止」ですが、bは「子ども」に対する禁止を表す以外に、「子どもが入るとよくないから、入らないように注意しよう」と、話し手が聞き手に告げる意味にもなります。「いけない」は、状況が好ましくない、ということを表します。
a 君は道を間違えてはいけない。地図をしっかり見るように。
b 君が道を間違えてはいけない。地図を書いてあげよう。
この例でも、aでは聞き手に対する注意ですが、bでは「間違えるようなことがあっては困るだろうから」というような親切心の現れです。
[~といけない]
同じような意味を表す文型で、「~といけない」という形があります。「33.勧め・忠告」でとりあげた「V-といい」という表現の「いけない」版です。意味は「Nが~てはいけない」に近く、あることが起こることは好ましくない、という判断を表します。「~ては」よりも「~と」のほうが自然な感じがします。主体は「Nが」で、「Nは」とはなりません。
間違えるといけないから、慎重に。
彼女には言わないように。悲しむといけない。
雨が降るといけない。洗濯物をしまっておこう。
子どもが目を覚ますといけない。
お金が足りないといけない。財布にもう少し入れておこう。
部屋が狭いといけないので、あまり荷物は持っていきません。
そのような事態のために何かをする、という意味合いで、「~ので/から」や「V-しておく」などの形が共に使われることが多いようです。
35.2 ~ては ならない/なりません
少し硬い言い方です。意味的には、個人的な判断であるより、社会的に・道徳的に当然のこととして、という意味合いになり、特に規則・法律などに多く見られます。「~てもならない」とはならないようです。
イ形容詞はあまり使われません。な形容詞・名詞述語は「であってはならな
い」の形がよく使われます。連体修飾にも使われます。
民族・宗教の違いによって人を差別してはなりません。
この部屋に無断で入ってはならない。
許可なくこの書類を読んではならない。
以上は意志動詞で、「禁止」の意味です。次は無意志動詞。
チェルノブイリのような事故は、二度と起きてはならない。
こんなことはあってはならないことだ。(起こってしまったことに)
「~(ような)ことがあってはならない」という表現もよく使われます。
人類が滅びるようなことがあってはならない。
政治家の汚職を見逃すようなことがあってはならない。
次は、ナ形容詞の例で、そうならないように努力せよ、という文です。
学生は政治に無関心であってはなりません。
人類は自然に対して傲慢であってはならない。
名詞述語の例です。この例は、規則によくあるような文です。
代表者は未成年であってはならない。
35.3 ~てはだめ だ/です
話しことば的で、「~しちゃだめ」という言い方でよく使われます。他の形では硬いと感じられる関係、家族や友達どうしや子どもの間でよく使われます。形容詞・名詞述語も使えます。「~てもだめだ」の形にもなります。
これを食べてはダメだよ。
こんなやり方ではだめです。
その手紙、読んじゃだめ。
ズボンを汚しちゃだめ。
やっぱりやらなくちゃダメかなあ。(やらなくてはいけない)
このお菓子、買っちゃだめ? (買ってもいい?)
大きくてはだめ、小さくてもだめ、なかなか難しい。
35.4 V-べきではない/べからず
「36. 義務・必然・不必要」で取り上げる「べきだ」の否定の形で、動詞の基本形を受けます。丁寧体は「べきではありません」。「する」は「すべきではない」の形も使われます。「V-べきではない」は、個別的なことではなく、社会的・一般的に正しくないということを表します。硬い言い方です。
こんな時にストをやるべきではないと思う。みんなが迷惑する。
教師に対して学生がそんな失礼な言い方をすべきではありません。
?このお菓子は、僕のだから、君は食べるべきではない。
(食べちゃいけない/だめだ)
最後の例は、「べき」では硬すぎる場面の例です。
過去形「V-べきではなかった」にすると、実際にしたことに対する批判の意味合いになります。
私たちはこの実験をすべきではありませんでした。
核兵器は、発明されるべきではなかった。
「べからず」は非常に硬い書きことばで、現在では古くなった言い方です。標語や規則などで使われる禁止の表現です。
この中に入るべからず。
人に言うべからず。
35.5 ~てもいい(です)
「許容・許可」の表現です。イ形容詞の「いい」から来ていますが、否定の形はありません。過去の形は「~てもよかった(です)」となります。書き言葉では「~てもよい」の形も現われます。「も」が落ちて「~ていい」の形もあります。相手の意志的動作に対して、話し手が「許可」を与えるような立場にある場合、「許可」の意味になります。無意志動詞や形容詞・名詞述語の場合は、「許可」というより「許容」の意味合いになります。
(次の例は、最後の例を除いて「も」の省略可)
これは見てはいけません。それは見てもいいです。
「この本、借りて行ってもいいですか」「はい、どうぞ」
その頃は、この川で魚をとってもよかった。
こんな難しい漢字は、忘れてしまってもいいでしょう。
レポートは遅くてもいいですから、必ず出してください。
無愛想でもいいから、仕事はちゃんとやってほしいものだ。
大きいのがなかったら、小さいのでもいいです。
昼食は、ここで食べても、食堂で食べてもいいです。
最後の例では「も」は必須です。「~も~も」の形になっています。
疑問文の丁寧な言い方として「~てもよろしいですか」がありますが、その答えとして「~てもよろしい」と言うと尊大な感じがします。「~てもけっこうです」という形もあり、こちらは疑問文には使えず、許可を与える場合にだけ使います。
「これ、お借りしてもよろしいですか」
君は、明日来なくてもよろしい。(年配の社長が部下に)
こちらのは、お持ちになってもけっこうです。
×いただいてもけっこうですか。(~よろしいでしょうか)
「~てもいいですか」で許可を求められた場合、「~てもいいです」で答えるのは適当でない場合が多くあります。「どうぞ。」や「どうぞV-てください」(指示)などの言い方を使います。
「この本、借りて行ってもいいですか。」「ええ、どうぞ。」
「入ってもいいですか。」「ええ、どうぞお入り下さい。」
「許可」とは違った意味合いには以下のようなものがあります。
もう、離婚してもいいと思っています。
こんな会社、辞めちゃってもいいんだけどなあ。
ある事柄、事態を「容認」する、それを否定しない、ということでしょうか。 次の例では「も」の省略はできません。「申し出」に近くなります。
その仕事、僕がやってもいいよ。(×やっていいよ)
cf. きみがやっていいよ。(モの省略可)
そういう事態が起こっても不思議ではない、当然だ、という気持ち。
雨がしばらく降らない。そろそろ降ってもいい頃だ。
マルバツ問題なんだから、半分ぐらいはできていいはずだけど。
また、次の例は「~たらいい」に近い用法です。(→ 33.4)
どこから手をつけていいかわからなかった。
過去形に逆接の表現をつけた「~てもよかった(のだが/のに)」の形は、「そうしなかった」場合に使われます。そういう選択肢もあった、という気持ちです。
あの時、すぐ帰ってもよかったのですが。(そうしなかった)
いやなら、やめてもよかったのに。
「いい」を否定にした「~てもよくない」は、次のような場合は使えます。結局、「~てもいけない」と同じことになります。
小さくてはダメだし、大きすぎてもよくない。難しい。
否定の述語を受ける場合は「36.5 ~なくてもいい」で扱います。
35.6 ~ても かまわない/かまいません
形は、「かまう」という動詞の普通形・丁寧形と同じになります。これ自体が否定の形ですから、「~てはいけない」と同様に、否定の形はありません。過去は「かまわなかった・かまいませんでした」です。
「自分でやってもかまいませんか」「ええ、どうぞ」
私たちの雑誌に原稿をお願いします。短くてもかまいません。
大学院生のほうがいいですが、大学生でもかまいません。
え、ぼくでもかまわないの?
「~てもいい」とほぼ同じような表現ですが、こちらのほうが「消極的な」許可・許容だと言われます。積極的に「いい」のではなくて、困った事態は起きないからどうぞ、ということでしょうか。けれども、逆に言うと、自分はそれを「許可」するような偉い立場の人間ではない、ということを暗示する効果もあり、偉そうに聞こえない、ということもあります。
「これ、見てもいいですか」
「ええ、いいですよ」/「ええ、かまいません」
後者のほうが柔らかいように感じます。
35.7 可能形・V-ことが できる/できない
可能表現で「禁止・許可」に近い意味を表すことがあります。状況可能です。
18歳未満の方は入れません。
もちろんこの意味は「入ってはいけない」という意味です。
もしもし、ここでたばこを吸うことはできません。あちらへどうぞ。
免許のないものはこの機械を使うことはできない。
肯定は許可の意味に近くなります。
どなたでも、中に入って触ることができます。
参考文献
高梨信乃1995「シテモイイとシテイイ」 宮島他編『類義表現の文法 上』くろしお出版
森山卓郎・安達隆一19 『セルフマスターシリーズ6 文の述べ方』くろしお出版
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