55. 連用のまとめ(2)

          55.1 連用修飾の種類 

          55.2 連用節どうしのまとまり方

          55.3 節を結ぶ接続詞

          55.4 同種の連用節の重なり


55.2 連用節どうしのまとまり方

これまでは「複文」と言っても、基本的に節が主節と従属節の二つだけのもので、その意味関係を考えてきましたが、以下では節の係り方の関係、まとまり方を見てみましょう。

 考え方の基本は、ある従属節が、独立の文にどれだけ近いかということ、独立性、あるいは逆に言えば従属度の問題です。そして、その節が、あとの節とどうつながっているか、あるいは切れているか、ということ。そしてさらに、

前に従属節があったら、それとのつながり方、前の節を受けて、それを包み込むか、あるいは前の節がその節を飛び越えて後ろの節とつながっているのか、などです。 


55.2.1 連用節が数多くある例

 問題を明らかにするために、次のような形で考えてみましょう。

     AしてBしながらCしたのでDだったがEではなくFだったから

     GしないようにHしてIしたらJしたためKした。

かなり多くの文型の連なりですが、実際にもありそうな文です。このように多くの節が重なった場合、どこに大きな切れ目があるのか、どのように区切っていって内容を理解すればいいのかを、考えてみたいと思います。もちろん、実際の文ではそれぞれの節の意味があるので、その意味を考えれば、どれとどれがまとまっていくのかはだいたいわかるでしょう。しかし、文法的な面からも区切りがある程度わかるはずです。

 一つ一つ順に考えてみましょう。まず、AとBの「~て」と「~ながら」ですが、これらはかかる範囲が狭いものと考えられます。「~て」は様子や手段の場合、同一主体、同一時間の事柄ですからひとまとまりですし、継起の場合でも一続きの事柄です。並列の場合はそこで意味的にははっきり切れるのですが、それでもすぐ次の節とひとまとまりとなるのでしょう。「~ながら」はもちろん同一主体・同一時間で、BとCのつながりは強いです。逆接の場合もすぐ次の節とひとまとまりになるでしょう。そこで、初めのほうは、

     [AしてBしながらCした]ので、

のようにまとまることが予想されます。例えば、

     あがってしまってどきどきしながら歌ったので、

     ベッドに寝転がって音楽を聴きながら眠ってしまったので、

などのように。

 次のC、D、E、Fあたりは、みな切れる力の強い節です。ただ、「~が」は特に大きく切れることが多いので、

     [・・CしたのでDだった]が、[EではなくFだったから~

のようになることが多いでしょう。

EとFの関係は、並列の前後、つまり「EではなくFだった」が一つのまとまりとなって「~から」で受けられることになるでしょう。例えば、

           ~ひどい出だしだったが、本番ではなくリハーサルだったから、

    ~服を着たままだったが、まだ寒い季節ではなく気持ちのよい秋の夜だったから、 

 残りの部分。「GしないようにHしてIしたら」ではGはHかIにかかるでしょう。HはIにかかり、「HしてIする」はひとまとまりです。つまり「~たら」がこの部分をまとめます。

 「IしたらJした」の「~たら」は仮定ではなく、継起的な事実の連続です。 先ほどの「Fだから」がどこにかかるかは難しいところです。

     [~Fだったから][GしないようにHして]

     [~Fだったから][[GしないようにHして]Iしたら]

 つまり、「Hして」にかかるか、あるいは「Iしたら」にかかるかわかりませんし、それ以外の可能性もあるかもしれません。いくつかの可能性の中から、あとは実際の文の意味内容によって決まるのでしょう。

 以上の文型の組合せで作った作例を二つ。

   1 あがってしまってどきどきしながら歌ったのでひどい出だしだったが、本番では

     なくリハーサルだったから、ともかく音程を外さないように注意して歌ったら、

     あとはうまく行ったため一応自信がついた。

   2 ベッドに寝転がって音楽を聴きながら眠ってしまったので、服を着たままだった

     が、まだ寒い季節ではなく気持ちのよい秋の夜だったから、とにかく風邪を引か

     ないように毛布を掛けてうつらうつらしていたら、電話が鳴ったため、仕方なく

     起きた。

無理に作った作例なので不自然なところがありますが、実際の文では連体節や引用も加わるのでもっと長いものがいくらもあります。「59.複文のまとめ」でその実例を挙げて検討してみます。

 以上、いくつもの従属節のある文で大ざっぱに「つながり方・切れ方」というものを考えてみました。ある従属節が、次の節と強く切れるかどうかは、基本的に意味によって決まります。次の節と対立する「逆接」がはっきり切れるのは当然でしょう。「様子」や「同時動作」が次の節とまとまるのも、その意味から考えて当然のことです。

 しかし、その中でも形式によって違いがあります。例えば、理由を表す形式の中で、大きく切れるものとそうでないものがありました。

 代表的な連用節を意味別に縦に並べ、その中で切れる強さによって左から右に並べてみました。

 

  逆接  が  けれども    のに    ながら

  並列   し              て             たり

  理由   から         ので  ために   て 

  条件                    なら  たら・と・ば

                                 ても・ては   

  目的                               ために のに

  継起                                    と  て 

  時                  とき  てから

  同時                             ながら つつ   

  様子                             まま ように て


 細かく見ていくには、その節の中の要素、主体の「は・が」や副詞句や複合述語の制限と、前後の節、特に主節との関係を見る必要があります。そして、それらによる分類は多少ずれるので、上の分類はそのだいたいの傾向を示したものと考えて下さい。


55.2.2 述語の主体の一致

 連用節と主体の「Nが」の関係を考えてみます。例えば、同時動作の「V-ながら」の主体は、それがかかる節の主体と一致します。同一主体の動作を言う文型ですから当然のことです。

     テレビを見ながらご飯を食べてはいけないと父は言うが、その父が 新聞を読み

     ながらご飯を食べている。

 このことを、「ナガラ節には主語が現れない」と言うことがありますが、つまりは「~ながら」の節を包み込む節の主体と一致しているのです。

「逆接」の「~ながら」には別の主体が入り得ます。

     体は小さいながら、力は強い。(南不二男例)

ただし、この例ではどちらの節も主題(例えば「その子は」)についての描写になっていて、全体が「は・が文」で、主体はその部分を示しています。その「が」が副題(対比)の「は」になっています。次の「~が」のような、全く別の主体についての文ではありません。

     これは大きいが、あれは小さい。

      cf. × これは小さいながら、あれは大きい。

 主題と同じ主体が「自分」の形になることがあります。

     母親は、自分も倒れそうになりながら、何とか子どもの体を支えていた。

 「様子」の「V-て」「V-まま」「A-そうに」なども主体が一致します。

     手をあげて、横断歩道を渡りましょう。

     彼女は、海を見つめたまま、ゆっくりうなずいた。

    ?定期券が切れたまま、気がつかずにバスに乗ってしまった。

 「~ように」では主体の様子をそのまま言う場合と、比喩的に似たものになぞらえる場合があります。

     彼女は舞うようにテーブルの間を泳ぎ回った。

なら「舞う」のは「彼女」ですが、「鶴が舞うように」とすれば主体が違います。

 目的の「V-ために」「V-のに」は例外はありますが、主体が一致します。「~ように」はその制限がありません。

 主体が一致しなければならない(その節独自の主体を持てない)節は少ないようです。   


55.2.3 主体のハとガ

 次の問題は、主体に付く助詞が「は」か「が」かという問題です。従属節の主体が必ず主節と一致する場合は問題ありません。主節を一つの文と考えて、「は」か「が」かは単文の時と同じように決められます。

   1 突然、男たちが/は 大声を上げながら、部屋に入ってきた。

     突然、男たちが/は 部屋に入ってきた。

この例では「が/は」のどちらでも使えます。どちらを使うかは、文脈と話し手の叙述の仕方によります。 

 問題になるのは次のような場合です。

   2 彼らは部屋に入ってくると、窓を開けた。

    ?彼らが部屋に入ってくると、窓を開けた。

   3 彼らが私の部屋に入ってきたとき、私は本を読んでいた。

    ×彼らは私の部屋に入ってきたとき、私は本を読んでいた。

 例2も例1と同じく同一主体の動作とすると、「が」では少し不自然です。その理由は、従属節が「~と」であることです。「~て」にしたほうが自然です。

   4 彼らが部屋に入ってきて、窓を開けた。

逆に、例3の「~とき」の場合は「は」では言えません。

   5 彼らが/は 私の部屋に入ってきたが、私は本を読み続けた。

 例5の「~が、~」では「彼らは」とも言えます。

 以上のように、節によって主体に「が」を使うか「は」を使うかの制限が違います。それを少し考えてみます。


A.従属節の独立性と「Nは」

主題の「は」は、主節、つまり文全体に属するものです。従属節の中で「は」が使えるのは、その従属節の独立性が高い場合です。ですから、例3の「~とき」のように、主節に別の主体がある場合は「は」が使えません。一方、例5の「~が、~」は独立性が高いので「は」が使えます。

B.従属節の「まとまりの強さ」と「Nが」

もう一つ、従属節には、主文からの独立性とは別に、それ自身がまとまりを作る強さの違いがあります。例えば、「~て」はそれが弱く、「~と」は強いのです。

 上の例2の不自然さは、主節の述語にかかろうとする「が」の力を食い止める「~と」の働きによります。「が」は「~と」を越えてその後ろにはかかって行けないのです。それと比べて、「は」なら楽々と主節の述語までかかれます。また、「~て」は次の節と一緒になってまとまろうとするので、「が」の力は主節の述語まで届きます。それが例2と例4の違いです。

逆に言えば、「が」を使うと、主節の主体は何か別の名詞と解釈されやすくなります。「~たら」の場合。

     お姉ちゃんは、帰ってきたら、ピアノの練習だ。

     お姉ちゃんが帰ってきたら、ピアノの練習だ。 (寺村例)

 「は」の場合は、文末までかかりますので、「練習」するのは「お姉ちゃん」ですが、「が」では「帰ってきた」までしかかかれませんから、「練習」するのは他の誰か、例えばこの文の話し手である「弟」になります。

次の例は、「~てから」の場合。「は・が文」が関係します。

     河崎先生は、この研究室に来てから、話が下品になった。

     河崎先生がこの研究室に来てから、話が下品になった。

「先生は」では「先生は話が下品になった」のですが、「先生が」では文末までかかれないので、おそらく「研究室の話(雑談)が下品になった」のでしょう。研究室の雰囲気が先生に影響を及ぼしたか、先生の個性が強烈だったか、という違いです。

 「~が」「~から」「~し」などでは、節の独立性が強いので、単文とだいたい同じように「は/が」が使い分けられますが、細かい問題はそれぞれあります。


55.2.4 連用節のテンス

 連用節の中の述語の時の表現についてまとめておきます。

 まず、テ形やタリ形などの活用形を使うものや、「~と」や「~あと」のように使える活用形が決まっているものはこの問題に関係ありません。現在形と過去形、「する/した」の両方が使えるのは次のような連用節です。同じような形・意味のものは代表的なものだけにします。

   逆接   が/けれども/のに 

   並列   し

   理由   から/ので/ために/せいで 

   条件   なら/とすると/ばあい  

   時    とき/あいだ

   様子   とおりに/ように

   限定   だけ 

 節の独立性が高い逆接の連用節は、独立した文に近くなります。言いかえれば、主節の時を基準とせず、発話時を基準にして「する/した」が決まります。

     彼は来たが、彼女は帰った。   

     彼は来るが、彼女は帰った。 

     彼はいるが、彼女は帰った。 

     彼はいたが、彼女は帰った。 

 以上の形はみな成り立ち、それぞれの「~が、~」の節は単文と同じように解釈されます。

「48.2 ~とき」のところで、「いる」などの状態を表す動詞や「~ている」などの複合述語、それに形容詞述語・名詞述語など、まとめて言えば状態を表す述語の場合は、従属節の現在形が、過去である主節と「同時」を表せるということを述べました。つまり、簡略化して示すと、

     イルとき、シタ。     

の「イル」は「イタ」と同じだと解釈されるということです。

 同じことが一部の連用節でも起こります。逆接の「~が、~」の例。

      品物は店の中にたくさん並んでいるが、値札がついていなかった。

     力は強いが、乱暴ではなかった。

それぞれ、「並んでいた」「強かった」という過去のことを表しています。

 ただ、常に現在形で言えるわけではなく、その使用条件は複雑そうです。

    × 私は隣のへやにいるが、誰にも気付かれなかった。(○いたが)

    ?その映画は面白いが、評判にはならなかった。(○面白かったが)

 「~し」も「~が、~」に近いようです。

    ?彼も参加するし、彼女も参加した。

の「する」は「した」と同じ時、すなわち発話時より以前を指すことはできません。「する」が将来を表すなら、やはり順番に、

     彼女も参加したし、彼も参加する。

としたほうがいいでしょう。

 状態性の述語の場合は、

     あの店は品数も多いし、店員の態度もよかった。

の「多い」は「多かった」の意味になり、主節の過去と同時になります。

 もう少し従属的な節の場合。先週のパーティーの話をしていて、

     久しぶりに恋人に会うので、胸がどきどきした。

     久しぶりに恋人に会ったので、何時間もしゃべった。

と言った場合、この「会う」は、発話時が基準になるのではなく、「どきどきした」時点から見て以後のことなので「スル」の形になっています。このように、状態以外の動詞でも主節を基準とした相対テンスが使えます。「~スル時、~シタ」の場合と同じです。一方、「会った」のは「しゃべった」よりも前です。

     どきどきした → 会う(会った)

     会った    → しゃべった

 この「会う」は学習者にとって使いにくい形です。

    ?久しぶりに恋人に会ったので、会う前、胸がどきどきしました。

のように書いてしまいがちです。(「~まえ」のところは現在形を使うということはよくわかっているとしても、です。)

 「~のに」の「従属度」も「~ので」と同じ程度です。

     久しぶりに恋人に会うのに、心がときめかなかった。

「会ったのに」とすると、意味が変わります。     

 状態を表す述語なら、現在形が主節と「同時」になります。

     正確な場所を知らないので、少し不安だった。(知らなかったので)

            お金を持っているのに、貸してくれなかった。(いたのに)

 次の「ある」は状態ではないので「以後」のことを表します。

     息子は、試験があるのにのんびりテレビを見ていた。

 ただし、「~ので」の場合、次の例では現在形が「以後」を表しません。

     彼が何度も頼む/そう言う ので、少し金を貸してやった。

では、意味は「頼んだ/言った」と同じです。

理由の「~ために」は節の内容が確定したことに限られるので、「スル」になる例はまれです。「シタために」か、状態述語がふつうです。

     イギリス国王がこの町を訪問されるため、道路を修理中だった。

「~する予定になっている」というような意味で、確定したこととして理由の表現になります。つまり、この「スル」は主節より以後を表します。状態性の述語なら同時です。

     体が小さいため、スポーツは苦手だった。(小さかったため)

     工事をしているために通れなかった。(していたために)

 「スルとおりにシタ」の「スル」は以後を表さず、同時つまり「シタ」と同じ時を表します。

     彼女の言うとおりにやった。

 「言ったとおりに」とすると、かなり以前のことにもなりえますが、「言うとおりに」はその場で指示している感じです。

 「スルようにシタ」の「スル」は、比喩的な、固まった表現として現在形を使うものです。もちろん、以後を表しません。

     手のひらを返すように態度が変わった。

 限定の「だけ」は、「限度いっぱい」の意味など「VだけV」の場合は現在形で、「ちょうどその分」の意味では過去形も使えます。

     積めるだけ積んだ。

     見るだけ見てみた。

     中に入れただけ、私はせめて運がよかったのだ。


55.3 連用節をつなぐ接続詞

 初級では、接続詞は文と文をつなぐことが多いのですが、節と節をつなぐこともあります。その多くは連用節と同類の接続詞が使われます。つまり、なくても意味は変わりません。

     これをやって、(そして)あれをやる。

     これをやって、(それから)あれをやる。

     これをやり、(そして)あれをやる。

     これをやって、(その上)あれもやる。

     これもやるし、(その上)あれもやる。

     これをやるが、(しかし)、あれはやらない。

     これをやったあとで、(それから)あれをやる。

以上はこれまでにとりあげてきた比較的単純な連用節です。

接続の型は「64.文接続詞」で考えて見ますが、「展開型」の接続詞が節をつなぐ位置に使われる場合もあります。

     これをやって、それでどうなるか。 

     これをやってみたが、さて、どうなるだろうか。

     これはこうやってみたが、では、あれはどうすればいいか。

     これをやったのだが、そうなると、次はあれが気になる。

この「が」は逆接ではなく、前置きです。

「~か」は「55.1.3 遊離的な節」として扱いましたが、名詞節の最後のところでまたとりあげます。選択型の接続詞になります。

     かぜをひいたのか、それとも、残業の疲れからか、体が重い。

     これをやるか、または/あるいは、あれをやる。

     これをやるか、それとも、あれをやるか。 


55.4 同種の連用節の重なり

 単文の補語の説明(「補説1」)の中で、「同格一個の原則」というのを紹介しました。これと同じようなことが、複文の場合にもあるでしょうか。つまり、一つの文には同じ連用節が2つ以上存在できるでしょうか。

 まず、並列は別です。それに、「継起」の「~て、~」と「~(中立形)、~」もいくつも並べられます。

     ここにもあるし、あそこにもあるし、どこにでもある。

     歯をみがいたり、顔を洗ったり、いろいろ忙しい。

     家に帰って、テレビをつけて、ビールを飲もう。

 それ以外の連用節を見てみましょう。     

 例えば、「並行動作」として次の三つのことはどう表したらいいでしょうか。

    [歩いた・歌を歌った・手を振った]

これを、単に「~ながら」でつないで、

    ?歩きながら、歌を歌いながら、手を振った。

とすると自然な文になりません。同時に行われていることでも、三つ以上になると「~ながら」では表せないのです。「~たり」にすると、

     歩いたり、歌を歌ったり、手を振ったりした。

どれか一つずつすることになります。同時ではありません。

この三つを一つの文で表すには、例えば、

     歩きながら歌を歌い、手を振った。

とでもするしかないでしょう。では、4つになったら?

     歩きながら歌を歌い、手を振り、足をあげた。

となります。つまり、並列の形でいくつも並べることになります。

「~て」でも、手段の場合は続けられません。

   1 × バスに乗って、電車に乗って、学校に行く。

   2 ?バスに乗って、電車に乗り、学校に行く。

   3  バスに乗り、電車に乗って、学校に行く。

2より3のほうがましに感じられるのは、「バスに乗り、電車に乗」が並列構造と見なされ、それを手段の「~て」がまとめているように解釈される可能性があるからでしょう。「~たり」を使って、

     バスに乗ったり、電車に乗ったりして、学校に行く。

とすると、「~して、~」のところが手段を表し、「~たり~たり」は並列を表すことになります。ただし、バスと電車は、続けて乗り継ぐものかもしれないし、別の日に乗るものかもしれません。

 次は逆接の例。

     [失敗をした・なんとかその場は隠した・見つかった]

    ?失敗をしたが、何とかその場は隠したが、見つかった。

 「~が」を二つ続けると不自然です。

 同じ逆接でも、かかり方のより小さいものと組み合わせれば可能です。

     失敗をしたものの何とかその場は隠したが、結局見つかった。

     [[Aしたものの]Bした]が、[Cした]。

 「AしたもののBした」という逆接と、「BしたがCした」という逆接の構造が順々に理解されます。

 ただし、次のようにするとうまく行きません。

    ?失敗をしたが、何とかその場は隠したものの、結局見つかった。

     [Aした]が、[[Bしたものの]Cした]。

つまり、大きな切れ目は「~が」のところにあるので、「AしたがBした」というまとまりになれません。

順接でも逆接でも言える例。

     象は鼻が長く、キリンは足が長く、サルは手が長い。

     象は鼻が長いが、キリンは足が長く、サルは手が長い。

     象は鼻が長く、キリンは足が長いが、サルは手が長い。

    ?象は鼻が長いが、キリンは足が長いが、サルは手が長い。

「~が、~」を二回使った最後の例だけが、不自然な文になります。

 時の節。「~とき」は、「に」や「は」をつけないまま、単に並べられます

が、「そして」も使えます。また、「とき」は形式名詞ですから、並列助詞の

「と」でも結べます。

     寂しいとき、(そして)悲しいとき、私は家族からの手紙を読み返す。

     朝起きたときと、夜寝るときに歯を磨きます。

「まえ」や「あと」「あいだ」なども同じです。

     ご飯を食べる前や、外で遊んだあとに手を洗います。

 「~あいだに」を並べる場合は、「に」は最後の一つだけになります。

     電車を待っているあいだと、電車に乗っているあいだに、日本語の単語を5つず

     つ覚えます。

前の「~あいだと」は「~あいだにと」の意味です。

「~てから」の例。ただ並べるのでは不自然になります。

     彼女の日本語は、大学に入ってから、そしてさらに日本企業に就職してから、

     一段と進歩した。

条件。単に並べるだけでは不自然で、「そして」や「さらに」などを付けたほうがいいようです。

    ?休暇が取れたら、お金があったら、旅行に行きたい。

     休暇がとれたら、そしてお金があったら、旅行に行きたい。

しかし、複数の条件を「~て」などでひとまとまりにするほうが自然です。

     休暇がとれて、お金もあったら、旅行に行きたい。

     [[休暇がとれ]て[お金もあっ]]たら

     この道をまっすぐ行って、信号で右に曲がると、駅に出ます。

「この道をまっすぐ行く」ことも、「~と」の中に入っています。

     [[この道をまっすぐ行っ]て[信号で右に曲がる]]と、~。

     若くて、美人で、スタイルがよくて、頭脳も明晰だったら・・・、僕なんか相手にし

     てくれないだろうな。

 最後の「~たら」の節を「頭もよければ・・・」のような「~ば」の節にしても同様のことが言えます。

 「~ても」は、すでに述べたようにいくつも並べられます。

     雨が降っても、槍が降っても、僕は行くぞ。

     彼がどう言っても、泣いて謝っても、許せない。

理由の節の重なりについてはすでに「50.11 理由表現の重なり」で述べました。目的については、「51.5 ~ように」で次の例をあげました。

     湯をわかすのに時間がかからないように新型の湯沸しを付けました。

     持ち運ぶのに便利なようにするために、箱に取っ手を付けた。

 「AためにB」はBに意志動詞が来るので、そのあとに「~ように」が来るためには主体が違っていなければなりません。

     犯人が証拠を消すために再び犯行現場に来るように報道を制限した。

     A大学に合格するためには、長文の英語が短い時間で読めるように練習しておく

     ことが必要だ。

様子の節。それぞれ違う形式は並べて使うことができます。

     靴を履いたまま、いすに乗って、飛び上がるように体を伸ばした。

    ?口を開けたまま、手をあげたまま(で)、こちらを向いた。

     口を開け、手をあげたまま、こちらを向いた。

 やはり同じ形式は並列の形にしたほうがいいようです。

 程度・限定・比較の節。二つ並べたり、「そして」などで重ねるように言う以外は一つだけでしょう。

     一人では食べきれないほど、二人でもどうかと言うぐらいの料理があります。

     両手にいっぱい持てるだけ、そして頭の上にも載るだけ載せて、ゆっくり運んで 

     いきました。

     本で読むよりも、人に話を聞くよりも、やはり実際に自分で見るのが一番です。

     

55.5 連用節どうしの関係

55.5.1 条件と時・理由・目的の関係 

 条件表現を成り立たせているAとBの関係は、この後で見ていく「理由」や「目的」の表現にも密接な関係があります。それを見てみましょう。

 まず分かりやすい例から、

     がけ崩れで列車が止まった。

「がけ崩れ」は原因を示す補語です。

     がけ崩れが列車を止めた。

とすると、「止めた」主体を表しますが、翻訳調です。

 形式名詞を使って、

     がけ崩れのために/のせいで 列車が止まった。

とすることもできます。

 以上の例では、「がけ崩れ」を名詞で表しているので、言い換えれば、一つの事柄に名前をつけて、その事がらを表すのにその名前を使っているので、文の形としては単文になっています。

 同じ事柄を、「がけが崩れた」と文の形で表すこともできます。一つの事柄全体に名前をつけて呼ぶのではなく、その事柄を補語(主体)と述語に分けて、動きのある現象として表現するのです。

 そうすると、上の文は、

     がけが崩れ、列車が止まった。

     がけが崩れて、列車が止まった。

のようになります。「崩れた」ことと、「止まった」ことをそのままつなぐ形式としては、上の「並列」の表現が最も基本的でしょう。

 事柄Aがあり、そして事柄Bがある(時間的には前後か同時かはわかりませんが、論理的には一応前後の関係があります。)

 こうすると、上の単文の「がけ崩れで」のようなはっきりとした「原因」の意味合いは薄れてしまいますが。

 それをはっきり言うには、

     がけが崩れたので、列車が止まった。

     がけが崩れたから、列車が止まった。

などの形があります。これらは「崩れた」ことと「止まった」ことを原因-結果の関係として話し手がとらえたことを表しています。

 「ので」や「から」の表現は、「電車が止まった」という事柄の原因を問う「なぜ」に対する答えであるとも言えます。

 さて、ここで「なぜ」ではなく、「いつ」という問いを出すこともできます。「いつ列車が止まったか」という問いに対しては、

     がけが崩れた時に、電車が止まった。

という形で答えることができます。これは「原因」の表現から離れて、「時」の表現です。これもまた、「がけが崩れた」と「電車が止まった」という二つの事柄を関係づけた文だと言えます。

 上の「時」の文は、ある一回の事柄の表現ですが、同じことが何度か繰り返され、

     (この前)がけが崩れた時に、電車が止まった。

     (今回)がけが崩れた時にも、電車が止まった。

     (将来)がけが崩れた時にも、電車が止まるだろう。

となると、この関係を一般化することができます。すなわち、

     がけが崩れると(崩れれば)、電車が止まる。

 「時」の表現から「条件」の表現になりました。「崩れる」ことと「止まる」ことを「条件-帰結」の関係としてとらえています。

 個別の事柄から、一般化されて条件が取り出されています。そしてそれはまた個別の事柄にも逆に使われます。

     今度がけが崩れたら、また電車が止まるだろう。

 初めの「原因」の文も、

     がけが崩れたので、電車が止まった。

上の「条件-帰結」の関係を認めることによって成り立つ表現です。

     薬を飲んだから、風邪が治った。

という文は、

     薬を飲む → 風邪が治る

    (薬を飲めば、風邪が治る)

という関係があることを認めている話し手によってのみ、使うことができるのです。

 そのことは、

     神様にお祈りしたから、風邪が治った。

のような文を考えれば、もっとはっきりするでしょう。その「神様」を信じていない医者に言わせれば、

     冗談じゃない。私があげた薬を飲んだから、風邪が治ったんだ。

となるし、医者を信じない皮肉屋なら、

     何を言う。かかって一週間たったから、自然に治ったんだ。風邪なんてものは、

     薬を飲まなくても、一週間たてば自然に治るんだ。

と言うかもしれません。                        

 「原因-結果」の文は、「条件-帰結」の関係が底にあるのだということを述べてきましたが、これは「目的」の表現にも言えることです。

     薬を飲んだために、風邪が治った。

     風邪を治すために、薬を飲んだ。

はちょうど裏表の関係です。「薬をのむ」のは、

     薬をのむ → 風邪が治る (飲めば、治る)

という関係があることを信じていればこそです。

     大学に入るために、一生懸命勉強した。

     大学に入るために、教授に金を渡した。


55.5.2 連用節全体の別の分類

 さて、「原因・理由」、「目的」の表現は、その底に「条件」の表現があると考えられることを見てきました。そして、「条件」は「時」の個別的な表現の一般化であるとも考えました。

 「時」の表現は、いちおう事実関係を表しているといえますが、条件、そしてそれに基づく目的や原因の表現は、二つの事柄の間にある関係を、話し手が想定することにより成り立ちます。

     Aさんが話し始めた時、Bさんがいやな顔をした。

「いやな顔をした」のは、急におなかが痛くなったからかもしれませんが、何にせよ、ちょうど「話し始めた時」であったということは(話し手の観察が正しければ)間違いではありません。それに対して、

     Aさんが話し始めると、Bさんは(いつも)いやな顔をする。

と話し手が長年の観察に基づいて思っていれば、

     Aさんが話し始めたので、Bさんがいやな顔をした。

と言うことができます。

 以上、時の表現と条件の関係、そして理由や目的表現は、その底に条件表現によって表される論理関係があり、それを認める社会・人によってのみ意味を持つことを見てきました。


55.5.2 連用節全体の別の分類

 連用節相互の関係を見てみましょう。

 二つの節の関係には、何らかの意味で前後関係がある場合と、前後関係のないものに分けられます。ここで前後関係というのは、時間的な前後だけでなく、上で見たような論理的な関係も含みます。時間的前後は、もちろん時の連用節によって表されます。「同時」も含みます。論理的な関係というのは、条件・原因・理由・目的などです。

 前後関係のないものは、逆接、並列・並行動作、様子・付帯状況の一部など、程度・限定・比較などです。

 意味的に対等もしくはそれに近いもの(逆接、並列など)と、まったく従属的なもの(その他)に分けられます。

ここにあげたのは連用節のほんの一部です。「その他の連用節」であげたようなものをすべて的確に収められるような分類はまだまだはるか遠い夢です。

誰か考えてみませんか? 

[連用節の相互関係]                         

  前後なし   意味的に対等   並列 逆接  

          従属的       手段 様子 程度 限定 比較など

 

  前後あり                 <前>    <同時>     <後>         

             時間      まえ    とき             あと       

                       うち    あいだ           てから     

                                  ながら・つつ             

               論理        原因                        目的    

                                  なら             と・ば・たら

 

niwa saburoo の日本語文法概説

日本語教育のための文法を記述したものです。 以前は、Yahoo geocities で公開していたのですが、こちらに引っ越してきました。 1990年代に書いたものなので、内容は古くなっていますが、お役に立てれば幸いです。

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