59. 複文のまとめ

    59.1 従属節内部の制限        59.5 複文の定義  

    59.2 従属節のまとまり方       59.6 文の構造のまとめ 

    59.3 連用節・連体節・名詞節     

    59.4 節と節のつながり方 


 「45.複文について」で概観した様々な従属節を一通り見てきました。ここで振り返ってまとめておきましょう。連用節については「55.連用のまとめ」を参照して下さい。

 文の基本構造を「補語(+補語)+述語」と考えると、その補語の名詞(句)のところ(および名詞述語)に節が入るのが名詞節で、その名詞を連体修飾するのが連体節、そして述語を修飾するのが連用節です。文全体にかかるもの、あるいは文法的には遊離しているものも、連用修飾の中で扱いました。引用節はちょっと別で、他の発話を現在の発話の中に取り込むものです。

まず、これらの従属節の性質をかんたんにまとめ、次に従属節どうしのまとまり方、そしてそれぞれが表す意味の関係を考えてみます。


59.1 従属節内部の制限

 従属節は、独立した文に近いものから、主節に対して非常に従属的なものまであります。連用節については「連用のまとめ」でまとめました。逆接の「~が、~」から同時動作の「V-ながら」などまでさまざまな段階があります。

 連体節では、外の関係の「という」を使う名詞では、制限が少なく、内の関係では制限が強くなります。名詞節は内の関係に近いのですが、「という」を使える場合には命令形などを使えるという点では、外の関係の連体節に似たところがあります。

 直接引用は内部にほとんど制限がありません。間接引用は終助詞・丁寧体が現れません。思考動詞の場合はもっと制限があります。

影響を受けるのは、述語のムード、テンス・アスペクトを表す形の使い方、従属節の「は」などです。その他、終助詞はほとんど現れませんし、文修飾の副詞なども引用以外には現れません。


59.1.1 述語の制限

述語は、基本述語型の普通形だけのものからさまざまなムードを表すものまで、「44.複合述語のまとめ」でも見たように、事柄を描写するだけの「客観的」なものから、話し手の意志や聞き手に対する働きかけである命令や勧誘などの「主観的」なものまであります。この「主観的」なものは多くの従属節の中に現れることができません。

59.1.2 複文のテンス・アスペクト

 連用節や連体節などのテンス・アスペクトについては、それぞれのところで「スル/シタ」の対立やアスペクトの問題を考えてみました。

ここで重要なことは、主節を基準とした「相対テンス」の現れる場合はどんな文型かということです。それが、学習者にはわかりにくいからです。

 独立した文に近いほうから言うと、まず直接引用はまったく制限がありません。それに逆接の「~が、~」もテンスに関しては独立文に近いですが、状態性の述語では現在形が主節の過去形と同時を表せます。

「~から」になると、他の動詞でも主節の過去と同時を表す現在形が現れます。その他の「~ので/のに」なども同様です。

 連体節では将来のことに「シタ」使えます。これは非常に特別なことです。

述語の形が固定される「スルまえに」「シタあとで」「スルと」や「シタラ」「シタリ」、「シながら」などでは当然のことながらテンスの対立はありません。

 「スル/シテイル/シタ」の対立は、特に時の連用節で問題になりました。連体節でも、主節とは違う面がありました。名詞節でも、主節の述語の種類によって違いがあります。


59.1.3 複文の主体とハとガ

 複文の場合、主体に「は」と「が」のどちらを使うかが問題になる場合と、そもそも従属節の主体が表されない場合があります。

 「は」と「が」については連用節・連体節などそれぞれの文型で触れてきました。「は」に関する制限も、相対テンスの場合と似ています。直接引用は独立した文と同じですし、「~が、~」の場合も「は」はふつうに使えます。その他の連用節では、それぞれ制約の程度が違います。連体節や名詞節では主題の「は」は使えません。対比の意味になります。

 主体の省略については、連用節では少し述べましたが、連体節では触れませんでした。一般的な例では、あまり問題がありません。

      彼女は、開けた窓を少し閉めた。

では、「開けた」のは「彼女」だと解釈されます。このような単純な動詞では、文脈から他の主体が推定されなければ、主節の主体と同一と見なされます。

      彼女は、開けてあった窓を少し閉めた。

となると、「開けてあった」は「窓」の状態を示す意味合いが強くなり、必ずしも「彼女」が「開けた」とは限りません。


59.2 従属節のまとまり方

59.2.1 連用節のかかる範囲 

連用節どうしのかかり方・まとまり方については「55.連用のまとめ」で考えました。ここでは連体節・名詞節も含めて考えてみます。

まず、次の例を見て下さい。

    a 寝坊して遅刻した回数は少ない。

    b 寝坊したために遅刻した回数は少ない。

    c 寝坊したので遅刻した回数は少ない。

    d 寝坊したから遅刻した回数は少ない。 (三上章例)

原因を表す「ために・ので・から」が連体節の中に入っています。「原因」という点では同じなのですが、意味の違いを感じませんか。

 まず、aは、遅刻の原因が寝坊であったことは少ない、ということです。遅刻そのものが少ないかどうかはわかりませんが。bも同じ意味です。ところがdでは、「遅刻した回数が少ない」原因は「寝坊した」ことだ、という変な意味になってしまいます。cはどうでしょうか。私はdに近いように感じますが、人によって違いがあるかもしれません。それにしても、a、bとdの違いは、何によるものでしょうか。

「て」「ために」「ので」「から」がどれも「原因・理由」を表すことは同じですし、上の例でも原因を表していることには違いがありません。「何の原因か」が違うのです。言い換えれば、原因を表す連用節が「かかる」述語が違うように感じるのです。

「寝坊して/したために」は「遅刻した」にかかり、「寝坊したから」では「少ない」にかかっているように感じるために、(感じるから?)上のような意味の差が生まれるのです。図式化してみると、

     [[寝坊した]ために遅刻した]回数は少ない

     [寝坊した]から[遅刻した]回数は少ない

となります。

このように、「~から」と「~ために」は、連用節としての「かかる力の大きさ」が違います。それによって連体節の中に収まるかどうかが違ってくるのです。

連体節に入りにくいのは、「55.連用のまとめ」に掲げた分類表の左端のグループですが、案外連体節に入ってしまうことがあります。

     何も知りもしないし、知ろうともしない連中が多い。

     ぜひ買いたいのだが、あまりにも高くて買えない本がある。

 これは、「Aし/が、B」で一つのまとまりになってしまっているということによるのでしょう。

 名詞節の場合も連体節とほぼ同様です。

     大雨が降ったために洪水が起こることは少ない。

     大雨が降ったから、洪水が起こることは少ない。

 ただし、「ために」の例は次のように言うのがふつうでしょう。

     大雨が降っても洪水が起こることは少ない。

     大雨で洪水が起こることは少ない。


59.2.2 かかり方のあいまいさ 

 連体節の中に入りうる修飾語(節)が、連体節を越えて後のほうにかかりうる場合、どの述語にかかるのかあいまいになることがよくあります。よく文法書に出てくる例を見てみましょう。

     渡辺刑事は、血まみれになって逃げ出す泥棒を追いかけた。

「血まみれ」なのは刑事でしょうか、泥棒でしょうか。言い換えると、

     血まみれになって → 逃げ出す

     血まみれになって → 追いかけた

のどちらかということです。「追いかけた」にかかる場合は、「なって」の後に読点を打つか、「泥棒を」の後に「血まみれになって」を持ってくるかしたほうがいいでしょう。

     渡辺刑事は、血まみれになって、逃げ出す泥棒を追いかけた。

     渡辺刑事は、逃げ出す泥棒を血まみれになって追いかけた。

同じような例はいくらでも考えられます。

     子どもは、アイスをなめながら買物をしている母を入口で待った。

     母は、父に言われて木に登った弟を叱った。

     父は、何もせずに文句ばかり言っている母を見ていた。

     私は車に乗って資材を運ぶ作業を見ていた。

     彼は泣きながら戦場に行く恋人と別れたという妹の手紙を読んだ。

     (泣いたのは彼か妹か恋人か)

 「作業」「手紙」は「外の関係」の連体節です。

 このような連用節は、それがかかる述語のすぐ前に置くようにすべきです。

     子どもは、買物をしている母をアイスをなめながら入口で待った。

     私は、資材を運ぶ作業を車に乗ってみていた。

     彼は、戦場に行く恋人と泣きながら別れたという妹の手紙を読んだ。

     彼は、戦場に行く恋人と別れたという妹の手紙を泣きながら読んだ。


59.3 連用節と連体節と名詞節

 さて、連用節は意味によって分類しました。並列・逆接、時・条件・理由・目的、様子・程度など。それに対して、連体節はその構造によって「内の関係」と「外の関係」に二大別し、さらに「内の関係」では補語の種類、「外の関係」では名詞の種類によって分けました。名詞節は節の終わりに来る形式に注目し、それが「の」か「こと」か「ところ」か、あるいは、もとの文が疑問文か命令文かなどによって分けて述べました。つまり、それぞれの節のどんな面に注目するかが違い、下位分類のし方が一貫していませんでした。

 日本語を使って、ある意味内容を聞き手に伝達しようというとき、重要なのは表現しようとする意味内容の種類でしょう。そして、その意味を表すのにはどんな構造があるか、ということです。そういう点からいうと、連体節も、それによって表される意味を考えなくてはいけません。名詞節も同様です。

そして、ある意味を表現するのに、どの従属節が適当なのか、という複文表現の選択ということに問題が発展していくのです。ここでは、違った種類の従属節が類似の意味を表すことがないかどうかを考えてみましょう。


[連体節と連用節]

 まず、連体節と連用節の関係から考えてみましょう。

 連体節の機能は、名詞に情報を加えることと、それによって名詞を限定することでした。まず、次の例は単純な情報付加です。

     隣の座敷にある仏壇にお茶を供えに行った。

     長い間待っていた知らせがやっと来た。

「座敷に仏壇があり、その仏壇に~」「私はある知らせを待っていたが、その知らせが~」ということでしょう。「仏壇」がいくつかあったり、「外の知らせでなく」というような、限定の意味合いはないでしょう。

 内の関係の連体節の最後のところで、固有名詞を修飾する連体節は、「限定」の機能を持たない、「非限定用法」であること、そしてそれが理由などの意味にとれることがあると述べました。しかし、それは非限定用法に限りません。

 次の例は限定用法で、「うわさを聞かなかった人々」と区別しているのですが、やはり「理由」の意味関係があると解釈できます。

     そのうわさを聞いた人々は、急いで銀行に走った。

     人々はそのうわさを聞いて/聞いたので、急いで銀行に走った。

 次の例も同じです。

     仕事が終わった連中は飲みに出かけた。 

「仕事の終わらない」話し手たちは仕事を続けているのですが、その「連中」は「仕事が終わったから飲みに出かけた」のでしょう。

限定用法でない例を見てみましょう。次の例は、固有名詞・代名詞などを修飾する典型的な「非限定用法」ではありませんが、文脈から指示物がはっきり決まっているので、やはり非限定と言っていいものでしょう。

     (その日、いつもの通勤電車に乗っていた。)

     新宿駅を過ぎた時、それまで快調に走っていた電車が急に止まった。

 「快調に走っていた」は「電車」を限定していません(他の電車から区別するための修飾ではありません)から、ここで「快調に走っていたその電車」のように指示語をつけても内容に変わりはありません。この「快調に走っていた」は、あとの「急に止まった」との対比のために置かれています。つまり、

     電車は快調に走っていたが、新宿駅を過ぎた時急に止まった。

に近い意味になっています。

以上の例と同じように、連用節で言いかえられるような連体節の例を並べます。かっこの中は、そのようにも言うことができる、という例です。

  逆接

     ゆうべ部屋でテレビを見ていた。いつもはよく映らないテレビが、なぜかその時

     はきれいな画面だった。(よく映らないのに~)

     社会に関心を持っていなかった生徒たちが、社会に目を開くいい機会を得た。

     (生徒たちは社会に関心を持っていなかったが~)

     ゴミ袋をつつきかけたカラスは、私を見ると急いで飛び去った。

     (つつきかけたが~)

  継起

     学校に帰ってきた生徒たちは、口々に山頂の景色の美しさを語った。

     (生徒たちは学校に帰って来て/くると~)

     トンネルを抜けた列車は、雪国の中を走っていた。

     (列車はトンネルを抜けて~)

     3年生になった生徒たちは、入試を気にするようになってきた。

     (生徒たちは3年生になって/なると~)

     テレビを見ていた子供が「あ、これ見て、お母さん」と言った。

     (子供はテレビを見ていて/見ていたが~)

 継起(順接)と考えるか、逆接と見なすかは微妙な場合があります。

  理由

     実験に成功した関係者たちが大騒ぎをしている。(実験に成功したので~)

     子どもをかわいがっていた親たちは、やがて、子供が離れていく時、それに適応

     できない。(親たちは子どもをかわいがっていたので~)

 以上の連体節の例は、かっこの中に書いたような意味をはっきり表しているということではありませんが、そのような意味をぼんやりと感じさせるという効果を持っているのでしょう。


[名詞節と連体節]

 連体節と名詞節のつながりを、それに使われる名詞をめぐって考えてみます。

 内の関係の連体節は、ほとんどの名詞が被修飾名詞になることができますが、外の関係の連体節を受けられる名詞は限られた名詞だけです。その中のある部分の名詞は、名詞節と共に使われて「AはBだ」の形になる名詞です。

     私は、外国人に日本語を教える(という)仕事をしています。

     (外の関係の連体節)

     私の仕事は、外国人に日本語を教えることです。(名詞節述語)

     外国人に日本語を教えるのが私の仕事です。(名詞節を受ける名詞述語)

     私は、外国人に日本語を教えるのが仕事です。

     売り上げを2倍にするという目標

     今期の目標は、売り上げを2倍にすることです。

     この会社のいいところは、仕事が少なくて暇なことです。

     仕事が少なくて暇だというところ 

 外の関係の「事柄名詞」の中のある種の名詞が名詞節の構文になります。そのいくつかは「57.2.11」で例を出しました。

 以下の例は連体節が名詞述語になった例で、「56.9」でとりあげました。

     ここで死ぬのが私の運命なのです。(名詞節)

     私はここで死ぬ運命なのです。

     マンションを売って郊外に家を買うというのが彼の計画だ。

     彼はマンションを売って郊外に家を買う計画だ。

     常に最善を尽くすのが彼女の主義です。

     彼女は常に最善を尽くす主義です。

 内の関係の連体節と名詞節も同じような意味を表すことがあります。

     後ろから追ってくる敵を感じながら、ひた走りに走った。

     後ろから敵が追ってくるのを感じながら、ひた走りに走った。 


[連用節と連体節・名詞節]

いくつかの連用節は、連体節・名詞節を使った表現でも同じような意味を表すことができます。「理由」の表現を例としてとりあげます。まず、初級教科書では次のような文型が提示されます。

     資金がなくなったために中断した。

     資金がなくなったので中断した。

     資金がなくなったから中断した。

     資金がなくなり、中断した。

     資金がなくなって、中断した。(中断せざるを得なかった)

 類似の連用節として、次のようなものが中級以降で現れます。

     資金がなくなったからといって、中断するのは好ましくない。

     資金がなくなったもので、中断してしまいました。

     資金がなくなったせいで、中断したのです。

     資金がなくなった故、中断した。

     資金がなくなっただけに、中断はやむを得ない。

     資金がなくなったからには、中断はやむを得ない。

 以上のように「理由」を表す形式はたくさんあり、形式名詞や「取り立て助詞」を使うものも多くあります。

 以上のものは皆連用節ですが、さらに、中級以降では次のように連体節・名詞節を使って「理由」表す表現も現れます。

     資金がなくなったことによって中断してしまった。[名詞節+によって]

     資金がなくなったことから中断せざるを得なかった。[名詞節+から]

     資金がなくなった(という)ことが理由で中断した。[名詞節+が理由で]

     資金がなくなったという理由で中断した。[連体節(内容節)+という理由で]

     資金がなくなったの/こと が、中断した理由だ。

     [名詞節+が 連体節+理由だ]

     資金がなくなったの/こと を理由に(して)中断した。[名詞節+を理由に(して)] 

     中断した理由は資金が無くなったことだ。[連体節+理由は 名詞節だ]

 基本的な連用節を使うのがいちばんやさしく、初級で提出される表現ですが、連体節や名詞節を使った形も、書きことばではよく使われるので、中上級の表現として必要なものです。日本語学習者はこれらの表現を「理由」の言い表し方としてすべて習得しなければなりません。

 類似の表現で、「原因」「きっかけ」などの名詞も名詞節・連体節の構造をとって「原因・きっかけ」を表す表現になります。

     資金がなくなった(という)の/こと が原因で中断した。[名詞節+が原因で]

     資金がなくなったの/こと が、中断した原因だ。

     [名詞節+が 連体節+原因だ]   

     中断した原因は資金がなくなったことだ。[連体節+原因は 名詞節だ]

 「理由」との違いは、次の言い方ができないことです。

     × 資金がなくなったという原因で中断した。

     × 資金がなくなったことを原因に(して)中断した。

そして、次の例では「理由」のほうが落ち着きません。

     資金がなくなったことが原因となって、中断した。

    ?資金がなくなったことが理由となって、中断した。

これらは、「理由」が意志的なものを含み、「原因」がはっきり非意志的なものであることによるのでしょう。

「きっかけ」は「原因」に近いのですが、「~をきっかけに」という形が可能であるところが違います。

     偶然出会ったのがきっかけで/になって、つき合うようになった。

     偶然出会ったのがつき合うようになったきっかけです。

     偶然出会ったのをきっかけに(して)、つき合うようになった。

     つき合うようになったきっかけは、偶然出会ったことです。

 以上のような名詞を使った文は、文法上の制限がそれぞれ違っていて、正確に記述することはかなりの作業になりますが、表現文法の立場から見れば、みな「原因・理由」の表現としてひとまとめに扱われるべきものです。そこに、静的な構造の記述と、実際の使用を考慮した表現のための文法との大きな違いがあります。

 「目的」の同じような例をあげておきましょう。

     政治資金を集めるためにパーティーを開いた。

     政治資金が集まるようにパーティーを開いた。

     政治資金を集めるにはパーティーを開くのが簡単だ。

     政治資金を集める(という)目的で、パーティーを開いた。

     政治資金を集めるのが目的で、パーティーを開いた。

     政治資金を集めることを目的にして、パーティーを開いた。

     パーティーを開いた目的は、政治資金を集めることだ。

 以上のように、連用節・連体節・名詞節という構造は、それぞれの違いを越えてある表現意図を実現するために使われるので、その事実を文法体系の記述の中のどこかに位置づけなければなりません。以上の例を見てもわかるように、それぞれの表現の中心となる名詞の用法の記述が大きな鍵となります。

 話し手は、これらの表現の中のどれを選ぶのかをどういう基準によって決めているのでしょうか。それを明らかにすることは、これからの文法研究の大きな課題です。


59.4 節と節のつながり

59.4.1 接続詞 

 連用節どうしを結ぶ接続詞については「55.3」で見ました。連体節や名詞節の「~か」のところでもそれぞれかんたんに触れました。

 接続詞の用法は「64.接続表現」でくわしく述べますが、「節をつなぐ」ということと、「文をつなぐ」ということの近さについて少し触れておきます。

 複文の中で、ほとんど文に近い従属節もあります。特に書きことばの場合、読点にするか、句点にするかは書き手の微妙な判断によります。

     ワインにするか、それともやっぱり、ビールにするか。

     どうしてもわからない。けれども、やってみたい。

     来ても、何も話さずに帰ってしまう、そんな日が続きました。

これらの例の句点「。」と読点「、」は、かなりの程度置き換え可能でしょう。この問題は連文でまたとりあげる予定です。


59.4.2 指示語

指示語が節の内容を受けることがよくあります。わかりやすい名詞節の例から。

     健康に注意すること、それが一番大切です。

     生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。

     相手の気持ちを尊重すること、これを忘れてはいけません。

 「これ」と「それ」の使い分けは、心理的な近さによるのでしょう。

 具体的なものについては、「それら」という複数の形を使うことはあまりありませんが、複数の名詞節は「-ら」の形で受けます。

     この作品の中には、愛すること、憎むこと、恐れること、それらの感情がそのま

     ま表現されている。

連用節の内容を受け直す場合。

     もし、遅れてきたら、それを批判すればいい。(遅れてきたこと)

     あの子はまだ小学生なんだから、そこ(のところ)を考えてやらなくちゃかわい

     そうだよ。(まだ小学生であること)

次の「その時」は時間でなく状況を示しています。

     やつが失敗したら、その時は何て言ってやろうか。(失敗した時)

連体節の場合。

     何でも子どもの言うとおりにする、そのような育て方では・・・

     (言うとおりにするような育て方)

     仕事を生きがいにし、一日中働きづめだった、そんな彼女が・・・

 ただし、次の例では節の内容を受けているとは言えません。

     女を食い物にする、あんな男は・・・

この「あんな」は、連体節がなくても、もともと「男」を説明しています。この場合は、「あんな」の内容を連体節が具体的に述べている、といった関係になっています。


59.5 複文の定義

 「45.複文について」では、「複文とは述語が複数ある文」ということで話を始めましたが、あらためて定義を考えると、いろいろ問題があります。

 「述語」になるのは、「動詞・形容詞・名詞+ダ」の3種類ですが、文末以外の位置にもこれらが現れる(つまり、「複数」になる)次の例のうち、どれを複文と考えればよいのかは、そうかんたんな問題ではありません。

   1 美しい花が咲いている。

   2 部外者である私にそんな話をしていいんですか。

   3 厳しかったあの先生も今では好々爺だ。

   4 まだ学部生だった彼は、研究会に入れてもらえなかった。

   5 のむ、うつ、かう、これが男の遊び。

   6 聞く力と書く力が足りない。

   7 何か食べるものない?

   8 今日は雨で、野球ができない。

   9 その子は彼の子だと思った。

   10 その子を彼の子だと思いこんだ。

   11 その子を彼の子と勘違いした。

例1・2は、形容詞・名詞述語の連体修飾を「節」と考えるかどうかという問題です。1を複文と考える人は非常に少ないでしょう。それなら2も単文ということになりますが、少し怪しくなります。例3・4は、それぞれの過去形で、こちらはより複文らしく感じます。これらをどう分類するか。

例5は動詞として働いていないので単文として問題ないでしょう。例6・7をはっきり連体節、つまりは複文だと言えるでしょうか。

例8は、「雨で」を原因を表す補語と見なすか、「今日は雨だ」が並列節として中立形になっていると考えるかが問題になる例です。「、」を入れると、節らしくなります。

例9は引用ですが、10では主体の「は」が対象の「を」になっています。主節の「思い込む」の補語だと考えられますが、では「彼の子だ」はどう位置づけられるのでしょうか。11のようになっていれば「NをNと」という補語の型になるのですが。

以上のような問題をそれぞれ解決して、さて、これは単文、これは複文、と分けることにどれほどの意味があるのか、という疑問もまたあります。この本では、定義の問題にはこれ以上深入りしないことにします。


59.6 文の構造のまとめ

 以上で単一の文の構造についての話を終わります。ここでかんたんに振り返ってみましょう。

 文の中心となるのは述語です。述語には3種類あります。名詞述語・形容詞・動詞です。そしてそれらが補語をとり、文の骨組みを作ります。名詞文・形容詞文・動詞文です。

 その骨組みを飾り、より豊かな内容の文にするのが修飾(語)です。補語の名詞と、名詞述語の名詞を修飾するのが連体修飾、述語を修飾するのが連用修飾です。文全体を修飾するものを文修飾とします。

 述語にさまざまな要素が付いて複雑になり、さまざまな意味を表すのが複合述語です。テンス・アスペクト・ボイス・ムードなど。特にムードは、文の基本的骨組みを包み込むような意味を持っています。また、複文の従属節の中に現れることができるかどうかも、あとで問題になります。

 複文は、一つの文の中に二つ以上の事柄を含み、それらを関係づけて表すことができる、複雑な文です。

 連体修飾が節の形となったものが連体節ですが、その機能は名詞の限定だけではなく、連用節に近い意味を表したり、その名詞の内容を表したり、連体節が示す基準に対して名詞が相対的な位置や時間を表す場合があります。

 名詞が節になったものが名詞節です。述語によって名詞節をとれるかどうか、その際に「の」「こと」のどちらを使うかなどが決まっています。名詞文で名詞節があらわれる場合は、「名詞述語」というものをどう考えるかが難しくなります。

 引用は特別な機能を持った文型です。直接引用の「引用句」は、単語でも文でも、あるいは単なる叫び声でもかまいません。ですから、「引用節」という名を付けるのも変です。間接引用は、引用部分が文の形をしていなければなりませんから、引用節と呼ぶことができます。

 文法として記述しなければならないことは、それぞれの文型の用法だけでなく、多くの文型を全体として眺めた「体系」の中にあるはずの規則性です。従属節の「まとまり方」、従属節の中の要素に対する制限などが重要な問題になるのでしょうが、今回はほんの概略を示すだけで精一杯でした。


niwa saburoo の日本語文法概説

日本語教育のための文法を記述したものです。 以前は、Yahoo geocities で公開していたのですが、こちらに引っ越してきました。 1990年代に書いたものなので、内容は古くなっていますが、お役に立てれば幸いです。

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