57. 名詞節(2)

        57.1 概観

        57.2 「~の」と「~こと」:述語の種類

        57.3 V-ところ

        57.4 「~か(どうか)」:疑問節

        57.5 「~のは/のが ~だ」:強調構文


57.2.11 名詞節を含む名詞文 

 「Nは/が Nだ」という名詞文で、二つのNのどちらかが名詞節となる形は意外に多くあります。両方とも名詞節になる場合はそれほど多くないです。

 まず、どちらかが名詞節である場合をとりあげます。


[名詞文の二つの型(復習)]

 その前に、基本的な名詞文の型を復習しておきましょう。

  Ⅰ 説明型

       あの人は田中さんです。

    「AはBです」の「A」の属性を説明する文で、「BがAです」とは(ふつうの文脈

    では)言えない。

      ×田中さんがあの人です。 

  Ⅱ 指定型

      田中さんはあの人です。

   Ⅰとの比較でいうと、いわば「BはAです」の形になり、「B」の名詞が「どれ・ど

   のN」であるかを「A」で指定する文で、「AがBです」の形でも言える。

      あの人が田中さんです。


[名詞節の場合]

①述語となる名詞節

  さて、述語名詞が名詞節になった場合は、上の二つのどちらの型と考えられるでしょうか。

   a 私の仕事は外国人に日本語を教えることです。

この文は、

   a’ 外国人に日本語を教えることが私の仕事です。

としてもほぼ同じ意味になりますから、上のⅡの「指定型」と言えます。ここで名詞節は、名詞述語「私の仕事」の内容を表しています。

一方、名詞節を主題とした次の例は少々不安定です。

   b ?外国人に日本語を教えることは私の仕事です。

 「あの人の仕事ではなく、私の仕事だ」というような対比的な意味を強く持たせないと、安定しません。また、aの「仕事」は「職業」の意味ですが、bの「仕事」は「責任範囲」という意味合いを感じ、少し意味が違ってきます。

 上のa’のように、bの「は」の両側を入れ替えてみます。

   b' × 私の仕事が外国人に日本語を教えることです。

 a’は安定していましたが、b’はかなり不自然です。つまり、bのほうは入れ替えにくいということです。Ⅰの「説明型」の特徴です。

 代名詞の「これ」に置き換えられるのはどれかを考えてみます。

     私の仕事はこれです。

     これが私の仕事です。

     これは私の仕事です。

    ?私の仕事がこれです。

となって、名詞節の部分が「これ」で置き換えられます。aの「外国人に日本語を教えること」は、「私の仕事」の内容を表しているのですが、文法構造上は、aの例、

     Nは 名詞節だ

は名詞文のⅡの指定型で、bの例、

     名詞節は Nだ

は名詞文のⅠの説明型になるということが言えます。どうもわかりにくい話ですが。

 aと同じような例を挙げておきます。

     私の趣味は切手を集めることです。

     切手を集めるの/こと が私の趣味です。

     今期の目標は、売り上げを2倍にすることです。

     この会社のいいところは、仕事が少なくて暇なことです。

     彼の欠点は、約束の時間に遅れがちなことです。

     国民の義務は、一生懸命働いて税金を納めることです。

     今回の事故の原因は、人為的なミスが重なったことです。

この文型になるのは、人や事柄の性質や側面を表すような名詞です。上の例からわかるように、「NのN」の形になるものが多くあります。

     仕事、担当、特技、趣味、生きがい、夢、希望、望み、願い、

     特徴、長所、欠点、癖、(いい)点、(悪い)所、義務、

     目的、目標、条件、(事故の)原因、始まり、きっかけ

 そして、その「NのN」は、「2.名詞文」で見た「は・が文」の一つの型になるものが多くあります。基本的な名詞文の例を復習しておきます。

     私の趣味は野球です 

     野球が私の趣味です → 私は野球が趣味です

述語名詞句の「私の」が主題化されて「私は」となっています。名詞節を含む場合も同様の型になります。

     私の趣味は切手を集めることだ    「AのBはCことだ」

     切手を集める の/こと が私の趣味だ 「CことがAのBだ」

     私は切手を集める の/こと が趣味だ 「AはCことがBだ」

 この場合、「~のが」でも言えます。

「は・が文」の形の例をいくつか。

     私は、後世に残るような仕事をするのが夢です。

     夫をなくした彼女は子どもを育てるのが生きがいです。

     この機械は、操作しやすいことが特徴です。

     彼女は、お酒を飲み過ぎるのが悪いところです。

     この事故は、運転手がよそ見をしたのが原因です。

     この会は、A氏が知人に呼び掛けたのが始まりです。

     この組織は、機械翻訳を実用化することが目的です。

 名詞節を含む「は・が文」というと、何か特別な型のようですが、こうして例文を見てみると、ごくありふれた例だということがわかるでしょう。


②名詞節を受ける名詞述語

 さて、初めのbの例、つまり名詞が述語となって名詞節をとる場合を見てみます。

     教育を受けるのは国民の権利です。

     市民の安全を守ることは警察の責任です。

     ここでやめることは、問題からの逃避です。

     子供と遊ぶことは、私にとって大きな楽しみです。 

 「こと」でなく「の」も使うもの、両方使えるものがあります。前に「判断・評価などを表す名詞述語」でとりあげた「事実だ・間違いだ」もこの例です。

     彼女がそこにいた(という)のは事実だ。

     彼女がそこにいたというのは 間違い/うそ/デマ だ。

 ここで興味深いことは、この文型では「は」でなく「が」のほうが自然な文になることが意外に多いことです。まず、上で見た「述語となる名詞節」の名詞節と名詞を入れ換えた例が「が」になります。

     売り上げを2倍にする の/こと が目標です。

     あそこでピッチャーを替えた の/こと が敗因だ。

 これらは、もともと「N(のN)は名詞節だ」を「名詞節がN(のN)だ」にしたものですから、「は」では言いにくいものがあります。

    ?売り上げを2倍にする の/こと は目標です。

    ?あそこでピッチャーを替えたのは、昨日の試合の敗因だ。

ただし、例えば「来期の目標です」とすると、「今期」や「前期」との対照の意味が出てくるので、「は」でもいくらかよくなります。「が」のほうがぴったりしますが。

     売り上げを2倍にする の/こと は来期の目標です。(~ことが)

 「こと」で言えない例も多いです。

     首相は早く辞任しろというのが国民の声だ。(?は)

「国民の声」を主題にすると、次のようになるでしょうか。

     国民の声は、首相は早く辞任しろ、というものです。

「~こと」とは言えませんから、名詞節述語とはなりません。

     もう自力では解決できないのが実情だ。

     計画が予定通りは進まないのが現実だ。

     悩み、傷つくのが青春だ。

     言い出したらやめないのが彼の性格です。

どういう名詞が「こと」で言えないのかは難しい問題です。次の例は、そもそも「Nは~」という形にできません。

     住民の安全を確保することが先決だ。(×先決は~)


③A、Bどちらも名詞節の場合

 「~ことは~ことだ」という形で、「AはBだ」の両方に名詞節が入ります。抽象的な内容になり、硬い書きことばの感じがします。 

     愛することは信ずることだ。

     本を読むことは著者と共に考えることだ。

     希望を持つことは、未来への大きな力を得ることだ。

 「という/って」を使うと、ずっと話しことばになり、多く使われます。

     二人とも仕事に出るということは、家に誰もいないということだ。

     0点をとったということは、落第するということだな。

     合格したってことは、お祝いをあげなきゃならないってことだ。

     じゃあ、何か、かわいそうだってことは、ほれたってことか?


④どちらかが「連体節+こと」である場合

AまたはBが、名詞または名詞節ではなくても、「~こと」の形の連体節であれば、もう片方に名詞節を使うことができます。「~ことは/が ~ことだ」という形になるわけです。

     今、必要なことは、誤りを認め、謝罪することです。

     私が言いたいことは、いい加減にしろ、ということです。

 これらは「連体節+こと」が主題の位置に来ています。

      今、そのことが必要だ。

     私は、このことが言いたい。

 逆に、述語に連体節が来ている例。

     大きいことはいいことだ。

     外国人に日本語を教えるというのは、楽しいことですか。

 「大きいこと」は、「(その)ことが大きい」のではなく、「何かが(例えばケーキが)大きいということ、大きいという事実」です。

     一生に一度、何か大きいことをやろう。

という「大きいこと」は「(その)ことが大きい」という連体節です。

 「いいこと」は「(その)ことはいい」という連体節です。

     一日一つ、何かいいことをしなさい。

の「いいこと」と同じです。

 二番目の例で、「楽しいことですか」を「楽しいですか」としても、意味はほとんど変わりません。これは、ふつうの名詞述語でも見られることです。

     この辞書は、いい(辞書)ですか。

 実質的な述語は、「辞書(です)」ではなくて「いい」なのです。


57.2.12 「~という/ような こと/の」

 連体節の最後のほうで「という」と「ような」について述べました。名詞節でも「という」が非常に多く使われます。話しことばで「って」にもなります。特に、「こと/の」では直接接続できない「~だ」や疑問文、命令文などを受けるときは必須です。

     神を信じるということは、すべてをゆだねるということだ。

     消費が伸びないというのは、経済が停滞しているということを示しています。

     わからないというのは、わかりたくないということでしょう?

     あんたが知らないってことはないんじゃないの?

     私が言いたいのは、今が買い時だってことです。

               今何が問題なのか、ということがわかっていないんじゃないの?

     彼女を誘ってみたら、ということも考えてみたんだが、どうもねえ。

 

     俺の酒が飲めないってことは、つまり俺とはつき合いたくないってことなんだ

     な。俺の顔なんか見たくないってことだな?ええ?(酔っぱらいのカラミです)

ような

もよく

使

われます

それに

すること

です

     人をあっと驚かすようなことをしてみたい。

     人をバカにするようなことは言うな。

     夜、一人で出歩くようなことはやめた方がいい。

 「というような」も使われます。

     彼は、この先どうなるかわからない、というようなことを言っていたけど、ま

     あ、何とかなるさ。

「なんて」は「などという(ような)」の意味です。

     この私が、見事結婚して、二児の母になるなんてこと、誰も予想しなかっただろ

     うなあ。はっはっは。

次の例の「ような」は、また少し違います。

     何も知らないようなことを言っていたけど、ありゃ嘘だね。

「ような」を使わず「×何も知らないことを言っていた」とは言えません。「引用」の「と」に当たる「ように」を使った形に近い意味です。(→ 58.4)

     何も知らないように言っていたけど、ありゃ嘘だね。


57.3 V-ところ

この「ところ」は場所ではなく、ある「場面」を表します。事柄が連続して起こる流れの中のある一点、という意味での場面です。主節の動詞は制限が少なく、トコロ節がある場面を示し、主節はそのとき起こったことを表すような動詞です。「スルところ」「シタところ」どちらもあります。

     どろぼうが逃げようとするところを捕まえた。

 この場合、「どろぼうを捕まえた」のですが、そのどろぼうを「逃げようとする」という「場面」で捕まえたことを表します。

     子どもがお菓子をつまみ食いするところを見た。(したところ)

     ボールが上がりきって、静止したところを叩いた。(するところ)

     彼女がドアを出ようとしたところを呼び止めた。(するところ)

     草原に雪がしんしんと降っているところを写真に撮った。

     彼は私が大物を釣り上げようとしているところをじゃましたんだ。

 その主体がある動きをし、その動きの最中(または後)に主節の動作が行われます。「する/した」の違いはほとんどなく、「た」は過去でも以前でもありません。                     

 これらはみなそれぞれの「主体」に対する動作になっています。

     子どもを見た  ボールを叩いた  彼女を呼び止めた

     雪を写真に撮った  

 「じゃま」はちょっと特別で、「人の行動をじゃまする/人のじゃまをする」という型になります。「×人をじゃまする」とは言いません。

    (私の)じゃまをした

 「ところへ/に」の例。

     うわさをしているところへ本人がやって来た。

     暴走族がたむろしているところへトラックがつっこんだ。

     桜の花が咲きかけたところへ、無情の嵐がやってきた。

     昼寝をしようとしていたところに電話がかかってきた。

     やっとのことで仕上げたところに追加の注文が来た。

     ちょうど電話をしようとしたところに返事の手紙が来た。

 これらの例でも、「(人の)ところへ/に きた」のですが、それは場所と言うより、その場面、その状態、です。「ところに」は「時に」との近さも感じさせます。

     (うわさをしている)私達のところへ本人がやって来た。

     暴走族(がたむろしているところ)へトラックが突っ込んだ。

     (昼寝をしようとしていた)私に電話がかかってきた。

     ちょうど電話をしようとしたときに返事の手紙が来た。

 「ところで」の場合。場所と言うより、時間の流れの中のある一点、という意味合いです。

     夢の中で恋人にキスしようとしたところで目が覚めた。

     あと1行書いたら印刷しよう、というところで停電し、パソコンの中の原稿は消

     えてしまった。

     うちを出て50mほど歩いたところで忘れ物に気がついた。

最後の例は、「その場所」の意味の連体節とも解釈できます。

 次の1の例は受身文ですが、2の文と同じで、3の文型になっています。

    1 どろぼうは木の陰に隠れていたところを見られた。

    2 どろぼうは顔を見られた。

    3 Aは(Aの/が)Bを V-られる

 「顔」は「どろぼうの顔」ですが、「ところ」では「どろぼうが~ところ」です。

 次の例になると、「を」を受ける動詞がなくなってしまいます。

     ドアが閉まろうとするところを、何とか飛び込んだ。(電車に)

     お忙しいところをわざわざ出てきていただいて。

     せっかく楽しそうなところを、呼び出してしまってすみません。

     遠いところをお呼び立てして申し訳ありません。

     お食事中のところ


57.4 ~か(どうか)

 名詞の代わりに疑問文が入る場合です。丁寧形は使わず、普通形ですが、敬語を使うと丁寧形になることもあります。疑問語のある疑問文では「~か」だけです。肯否疑問文では「かどうか」になるものと、ならなくてもいいものがあります。

     突然、どうすればいいか(が)わかった。

     結婚記念日はいつだったか(を)すっかり忘れてしまった。

     これで良いか(どうか)(を)聞いてみた。

     この方法でうまくいくか(どうか)(を)試してみよう。

     このことを知らせるべきか(どうか)(で/に)迷った。

     その時、彼女がいたかどうか(を/は)忘れました。

     ?その時、彼女がいたか(を/は)忘れました。

     これまでのやり方でいいかどうか(を)決めたい。

     そううまく参りますかどうかはわかりません。

 格助詞は省略可能な場合が多いのですが、そうでない場合もあります。名詞節としての名詞性が必要になる場合、例えば、連体修飾を受けたり、「NとN」の構造になる場合などです。

     長く問題になっている、新学科を作るかどうかを話し合った。

     次に、パーティーは誰を呼ぶかとどこでやるかを相談した。

     モノレールの開通がいつになるかが次の問題だ。

最後の例は、「指定」の「が」で、省略できません。「次の問題は~だ」をひっくり返した形です。

 この文型をとる主節の述語には制限があります。名詞節の内容は疑問文ですから、質問の意味の動詞以外に、知的あるいは精神的な活動に関係のある述語に限られます。

 まず動詞の場合、

   聞く、尋ねる、質問する、問い合わせる

   言う、話す、知らせる、連絡する、話し合う、議論する、教える、

   わかる、知る、覚える、忘れる、調べる、試す、テストする、

   判断する、推測する、予想する、考察する、議論する、決める

   疑う、悩む、迷う、心配する

などの心理・伝達の意味を持つものです。

 補語+動詞の形の連語でもいろいろあります。意味的には上の動詞に近いものです。

   疑問に思う、問題にする、判断に迷う、意見を述べる、議題に上る、     

   決定を下す、調査を始める、

     業者にいくら払ったか(が)問題になった。

     これから何をすべきかが議論の中心になった。

 範囲・原因の「で」の場合はちょっと特別で、他の動詞でも使えます。「AかBかで」の形もあります。

     材質が木かプラスチックかで重さがずいぶん違ってくる。

     休みにするかどうかで意見が分かれた。

     どういう態度で切り出すかで、相手の対応も変わるから難しい。

     どうやるか/やるかどうか でけんかになった。

 また、ふつうは名詞節をとらない動詞でも、「てみる」をつけると、

     おとなしくしているかどうか、彼の家へ行ってみた。

     私の足には大きすぎないかどうか、ちょっとはいてみた。

のように使うことができます。これは「てみる」に「試す」の意味があるためでしょう。

 同じように、「ておく」も使える場合があります。

     水が何日ぐらいでなくなるか、そのまま置いておいた。  

これは「~なくなるか(調べるために)」のような省略と考えられます。

 形容詞では、

   明らかだ、不明だ、疑わしい、心配だ、不安だ、重要だ、大切だ、

などがこの文型になります。

     昭和天皇に戦争責任があるかどうかは明らかだ。

     この説明が正しいかどうか、どうも疑わしい。

     彼女が来てくれるかどうか(が)心配だ。

     証人が出席できるかどうかが重要だ。

「明らかだ」は「~かどうか」でも「~ことは」でも同じ意味になります。

     昭和天皇に戦争責任が ある/ない ことは明らかだ。

そう言わずに、聞き手に判断させるのが上の「~かどうか」でしょう。

「心配だ」は疑問語がなくても「~か」だけで言えます。

     彼女が来てくれるか心配だ。

「重要だ」はできません。

    × 証人が出席できるか重要だ。

 名詞文の場合、

     これでうまく行くかどうか(が)問題だ。

     問題はこれでうまく行くかどうかだ。

     誕生日に子供たちが何をくれるか楽しみだ。

のように、「AはBだ」のA、Bどちらにも「~か(どうか)」が現れます。つまり、「~こと」と同じです。もちろん、その名詞には制限がありますが。

     こんな計画では、期日に間に合うかどうか(は)疑問だ。

     いったい誰を会長にしたらいいのかが最大の悩みの種だ。

     このエッセイ集の持ち味は、材料をいかに料理して出すか、である。

       今何が必要かは、みな知っていることだ。問題は誰がするかだ。

     聞きたいことは、いったい誰が弁償するのか、(ということ)です。

 ふつうの格助詞だけでなく、格助詞相当句にも続けられます。

     この予算をどう扱うかについて、何か意見があったら言って下さい。

          会議の際にどういう順で座るかをめぐって、慎重な根回しがあった。

     誰に頼むかによって、出来上がりに差が出る。

 次の例のように指示語で受けることもあります。

       生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。

     何がいちばんの問題なのか、そこを考えたい。

 「~と」があるものは疑問文の引用とみなします。「58.引用」を参照して下さい。

     お前は行くかと聞かれたので、誰が行くものかと答えた。(×行くかどうかと)

     こんなことも知らないのかと馬鹿にされたが、知らないものは知らない。

     子どもに何が欲しいかと尋ねたら、いくら持っているのと聞かれた。


[AかBか]

「5.9 並列助詞」で「NかN(か)」の形をとりあげましたが、そのNのところに節が入ります。もちろん、あとの「か」は省けません。接続詞が入ることもあります。

     映画に行くか、ビデオを見るか(を)考えていた。

     映画を見るか、(それとも)原作を読むか、どっちを先にしようか。

     見てから読むか、読んでから見るか、あなたはどっち?

     危険を承知でやるか、(あるいは)おとなしくあきらめるか、二つに一つだ。

     たかが勝つか負けるか(のどちらか)だ。命を取られるわけじゃない。

     引くか、(それとも)食い下がるかによって戦況は大きく変わる。

     一千万円以上か、以下か、どちらの場合でもご相談に応じます。


57.5 強調構文:~のは/のが ~だ

 ここで強調構文と呼ぶのは次のような文です。ある文の一部分を強調するために「~のはAだ/です」のAの位置に動かすのです。例えば、次のそれぞれの(a)の文を(b)のようにします。

   1a この辞書は使いやすいです。

    b 使いやすいのはこの辞書です。

   2a 彼だけが試験を受けませんでした。

    b 試験を受けなかったのは彼だけです。

   3a 私はこの本を読みました。

    b 私が読んだのはこの本です。

   4a 泥棒はこの窓から入りました。

    b 泥棒が入ったのはこの窓(から)です。

   5a 私は兄からお金をかりました。

    b 私がお金をかりたのは兄からです。

ここで「強調」というのは、その要素を文の焦点に持ってくることです。文脈によって、「聞きたいこと」「言いたいこと」の中心が違いますから、そこをはっきりと言うための文型です。例えば、

     この辞書はどうですか。 

という質問に対する答えとしてなら、上の(1a)でいいのですが、

     どの辞書が使いやすいですか。

の答えとしては、

   1c この辞書が使いやすいです。

    b 使いやすいのはこの辞書です。

(1c)か(1b)の形になります。焦点となる「この辞書」を名詞述語の位置に置いて、すでに文脈に出ているその他の部分(この例では述語「使いやすい」だけですが)を主題の位置に持ってきて「~のは」という形にします。

 この例のように「指定のガ」(「9.「は」について」を見て下さい)になる形容詞文や名詞文なら、(1c)のように「が」を使えば焦点であることがはっきりしますが、例3のような場合は、

     あなたはどの本を読みましたか。

に対する答えは、上の(3a)のような、特に焦点を示せない文しかありません。そこでこの強調構文が使われるわけです。

 これらは、形容詞文の「ハとガ」を考えたときに、

     これがおいしいです/おいしいのはこれです

という例を出しましたが、この後の文と同じ形です。この「の」は、「(おいしい)もの」の代わり、つまり名詞の代わりに置かれたとも言えますが、5の「お金を借りたの」などを見ると、強調構文の「の」をすべて名詞の代用と考えるのは無理です。

    × 私がお金を借りた人は兄からです。

この「の」は名詞節を形作る「の」と考えます。 

 それぞれの「元の文」から動かされ、強調されるのは一つの補語です。初めのふたつの文では、「この辞書」「彼だけ」という「Nが」(主体)が強調され、「は」の後ろに移されています。次の「この本」は「Nを」です。

 「元の文」の補語の「が」と「を」は強調構文の「だ・です」の前では削除されます。 例4の「この窓から」の「から」は強調構文で省略しても意味は通じますが、例5の「兄から」の「から」は省略しないほうがいいでしょう。

   6a 私はこの絵がいちばんいいと思いました。

    b 私がいちばんいいと思ったのはこの絵です。

 6の例は、「・・・と思う」で引用された中の「この絵が」という補語を取り出して強調している例です。

   7a 夕方から夜にかけて雨が降りました。

    b 雨が降ったのは夕方から夜にかけてです。

   8a 私達は京都から奈良まで歩いていきました。

    b 私達が歩いていったのは京都から奈良までです。

 これらの例は、強調される要素が一つの補語ではない例です。ただ、「夕方から夜にかけて」「京都から奈良まで」全体でそれぞれ「時」「範囲」を表しているとは言えます。

 次の文は「一つの補語」の例外になりそうで、ちょっと困ります。

     外国へ行くのはこれがはじめてです。

     (はじめて外国へ行きます。)

この「これが」の由来の説明がちょっと困ります。「これが」の他には「今回が・その時が・あれが」のような場合を示す表現が入り、「はじめて」のところには、「最初・二度目・三回目・最後」など、順番を示す表現が来ます。

     日本を出るのはその時が三度目だった。

     (?その時、三度目に日本を出た。)

 これは、強調構文とするのがよくないのでしょう。

     外国へ行くのは初めてです。

はいいとしても、「これが」がなど入った文は、別の文と考えるのでしょう。

 似たような例としては、

     これに気づいたのは彼が三人目だ。

という例があります。「彼で」の方が自然に感じますが。

 最後に、「Nと」や「Nに」の「と」「に」を残す例。あまり自然な感じはしません。ふたつのものを対比的に並べる場合にでてきます。

     私が話し合いたかったのはA氏とで、B氏とではない。

     文句を言ったのは太郎にで、次郎にではない。


[「~のは~からだ」など]

 この文型の「~だ」の位置には従属節も入ります。特によく使われるのは理由・目的を表す「~からだ」「~ためだ」です。

     おいしいのは、スパイスを利かせたからだ。

     今日特に寒いのは、本格的な冬型の気圧配置になったためです。

     生活を切りつめているのは、家を買うためだ。

 時の連用節もこの形にすることがあります。

     僕が生まれたのは、日本がアメリカに占領されている時だった。

     停電になったのは、ワープロの文書を保存する前だった。

     やっと駅に着いたのは、もう列車が出たあとだった。

     テレビを見ていいのは、宿題をやってからだよ。


「~のがNだ」

 「強調構文」というと、「~のは、Nだ」という形が誰しもすぐ頭に浮かぶのですが、実際の例を見てみると、意外に「~のが~だ」という形がよくあることに気が付きます。

     ちょうどそこへ来たのが、当の松井さんでした。

     ここで問題にされたのが、委員会の人選方法である。

     こういう時に暇つぶしになるのが、星占いや血液型なんです。

この「元の文」はどういう形でしょうか。

     当の松井さんがちょうどそこへ来ました。

     ここで委員会の人選方法が問題にされた。

     星占いや血液型は、こういう時に暇つぶしになるんです。

 これらから、上の例と、次の「~のは~だ」のどちらも作ることができます。

     ちょうどそこへ来たのは、当の松井さんでした。

     ここで問題にされたのは、委員会の人選方法である。

     こういう時に暇つぶしになるのは、星占いや血液型なんです。

では、「~のはNだ」と「~のがNだ」はどこが違うのでしょうか。よくわからないのですが、一つ言えることは、「~のは」のほうは、主題文であり、「~は」は主題であるのですから、その部分についてあとの部分が解説になっているということです。

 例えば、「ここで問題にされたのは」と言うと、文脈の中で、何かが問題になっていて、それの答えをこの文で述べる、という形です。「ちょうどそこへ来たのは」の例でも、「皆が松井さんの話をしているところへ誰かが来た。それは松井さんだった。」ということです。

 それに対して、「~のが」の文では、「~の」の部分は主題ではありません。これは、形容詞文の現象文に近いものと考えられます。つまり、全体が文脈に新しく導入されたことがらです。その点では、「元の文」と同じですが、なおその上に、「Nだ」の部分に焦点を当てている文です。

 とは言ってみても、次の3つの文の使い分けを学習者にわかりやすく説明するのはかなり難しいことです。

     彼の童話はどれも有名だが、この話は特に有名だ。

     彼の童話はどれも有名だが、特に有名なのはこの話だ。

     彼の童話はどれも有名だが、特に有名なのがこの話だ。

この違いにこだわるより、他にもっと重要なことがありそうです。


[参考文献]

益岡隆志・田窪行則 1992『基礎日本語文法 改訂版』くろしお出版 

寺村秀夫 1981『日本語の文法(下)』国立国語研究所       

益岡隆志 1997『複文』くろしお出版 

野田尚史(1996)『新日本文法選書1 はとが』くろしお出版

近藤純子2000「複合辞「ところを」についての論考」『日本語教育』103

大島資生1996「補文構造にあらわれる「こと」と「の」について」『東京大学留学生センター紀要第6号』

加藤理恵1998「「~ところを~する」という構文の意味記述『ことばの科学』11名古屋大学言語文化部

鎌田倫子1998「内容節をとる動詞のコトとノの選択規則-主動詞の意味分類と節の時制から-」『日本語教育』98

工藤真由美1985「ノ、コトの使い分けと動詞の種類」『国文学 解釈と鑑賞』50.3

近藤泰弘1997「「の」「こと」による名詞節の性質-能格性の観点から-」『国語学』190

高橋太郎1996「「~というもの」「~ということ」「というの」」『立正大学人文科学研究所年報』34

田中寛2000「「こと」、「の」節をうける形容詞述語文」『語学教育研究論叢』17大東文化大学

野田春美1995「ノとコト」宮島他編『類義下』くろしお出版

橋本修1990「補文標識「の」「こと」の分布に関わる意味規則」『国語学』163

橋本修1994「「の」補文の統語的・意味的性質」『文藝言語研究言語篇』25筑波大学

備前徹1983「名詞述語文の補文の構造」『日本語教育』51

備前徹1986「名詞述語文における「の」と「こと」『東海大学紀要 留学性教育センター』7

備前徹1989「「~ことだ」の名詞述語文に関する一考察」『滋賀大学教育学部紀要人文化学・社会科学・教育科学』39

野田時寛1997「複文研究メモ(1)-連体節・名詞節と名詞-」『人文研紀要』27中央大学

天野みどり(1995a)「「が」による倒置指定文-「特におすすめなのがこれです」という文について-」『人文科学研究』八十八輯 新潟大学

天野みどり(1995b)「後項焦点の「AがBだ」文」『人文科学研究』八十九輯 新潟大学

熊本千明(1989)「指定と同定-「・・・のが・・・だ」の解釈をめぐって-」『英語学の視点』九州大学出版会

新屋映子(1994)「意味構造から見た平叙文分類の試み」『日本語学科年報15』東京外語大

砂川有里子(1995)「日本語における分裂文の機能と語順の原理」『複文の研究(下)』くろしお出版

砂川有里子(1996)「日本語コピュラ文の談話機能と語順の原理-「AがBだ」と「AのがBだ」構文をめぐって-」『文藝言語研究 言語篇』30 筑波大学

渡辺真一郎(1979)「日本語の分裂文について」『英語と日本語と』くろしお出版


niwa saburoo の日本語文法概説

日本語教育のための文法を記述したものです。 以前は、Yahoo geocities で公開していたのですが、こちらに引っ越してきました。 1990年代に書いたものなので、内容は古くなっていますが、お役に立てれば幸いです。

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